マヒロ

父の祈りをのマヒロのレビュー・感想・評価

父の祈りを(1993年製作の映画)
3.5
1970年代のロンドンで、アイルランドから出てきて放浪生活を続けていた青年ジェリー・コンロン(ダニエル・デイ=ルイス)は、IRA過激派による爆破テロ事件の犯人と疑われて突然逮捕された上に、彼の仲間はおろかアイルランドに残っていた家族まで一緒に逮捕されてしまう。冤罪を訴え続けるジェリーだったが、拷問にも等しい過激な取り調べに屈して嘘の供述書に署名してしまい、父ジュゼッペと同じ刑務所に収監されることになる……というお話。

イギリス史上最大の冤罪事件と言われるテロ事件をモチーフにした作品で、ジェリー・コンロンも実在の人物であり彼の回顧録が原作になっているらしい。
事件について描いた作品だと思っていたが、どちらかというとそれをきっかけに変わっていくジェリーと父の親子関係がメインになっているように思えた。一向に冤罪が認められず半ばヤケクソになるジェリーとは対照的に、冷静に自身の立場を顧みてやるべき事を行うジュゼッペの真っ直ぐ芯の通ったところが格好良い。演じるピート・ポスルスウェイトという俳優さんは初めて見た人だったが、極力抑えた佇まいでジュゼッペという人を演じ切っていて、情熱的なダニエル・デイ=ルイスの演技とのギャップも含めて素晴らしいアンサンブルになっていた。
最初は父に対しても反発しており、刑務所内で暴動に参加したりしていたジェリーが、自分を曲げずにいる父に徐々に影響され、その意思を受け継いで真っ当な方法で戦うようになる様が良い。

実際はジェリーとジュゼッペが同じ刑務所に入れられたという事実は無いようで、まぁそこは映画的な嘘として別に良かったんだけど、そこに更にテロの真犯人が収監されてくるというのはちょっと出来すぎているように思えた。この“真犯人”が本物であるというのは劇中でもハッキリとは分からないが、実話を基にした話の中で突然都合の良すぎる人物が現れるのにちょっと違和感あった。
また、途中からはエマ・トンプソン演じる弁護士と共に法廷での戦いになっていくんだけど、ここが案外あっさり気味で、序盤で不当に非難され虐げられたジェリー達の反撃としては描写が弱く若干物足りず。刑務所内での描写に大きく脚色を加えているのなら、ここももう少しドラマチックにしても良かったのになと思った。
大きく嘘をつくか、実話に忠実にシビアに描くか、どちらかに振り切れている作品の方が個人的には好きかなぁ。

(2022.234)
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