KnightsofOdessa

孔雀夫人のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

孔雀夫人(1936年製作の映画)
3.5
No.101[アメリカ人の鬱屈した欧州への憧れ] 70点

自動車会社で富を得た真面目な夫サムと、欧州文化に憧れてアメリカを軽蔑する無知で奔放な妻フランの過激な対比は、そのまま当時のアメリカ人の鬱屈した内面を体現しているようで、そのアイデンティティを探す旅路の果てに、それが逆転しながら完膚なきまでに崩壊していくのは滑稽かつ病的だ。夫婦は妻の念願叶って欧州への旅に繰り出したことで、互いから心が離れていく。パリでは"上流階級の人々"に囲まれたかのように見えるが、本当に気品溢れる金持ち貴族が自分から欧州かぶれの家名もないアメリカ人に近付くはずもヨイショするはずもなく、怪しげな人々がフランを取り巻く地獄絵図に他ならない。しかも、背伸びしすぎてそれに気付けないというのはあまりに痛々しい。あまりに無知かつ単純すぎるフランには終始イライラするが、端々に抑圧されてきた過去が垣間見えるので複雑な気分になる。

逆に、金目当ての下らない人々がこぞってフランの下に集まるのに対して、サムの周りには教養豊かな貴婦人一人という夢物語感も凄い。彼女の関わるラストでは、欧州の教養ある女性の下に戻ってくることでフランの憧れを叶えてしまい、欧州の男たちに振り回されたフランはそのままアメリカへ帰るという形で夢を叶えてしまう。実に病的だ。
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