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ルシアンの青春のバナバナのレビュー・感想・評価

ルシアンの青春(1973年製作の映画)
4.0
第二次世界大戦後期のフランスで、対独協力者になった17歳の少年の話。

時は1944年、フランスの片田舎の町で病院の清掃夫として働いていたルシアンが休暇で実家に帰ると、母は大家の情婦になっており、実家は別の家族に貸し出されていた。
母親にもう帰ってくるなと言われるルシアン。
仕方なく、地元のレジスタンスに入ろうとするが、まだ若いという理由で断られる。
自転車もパンクし、元の町に帰る途中でドイツに協力しているフランス人秘密警察と知り合い、そこで親切にされ、ルシアンも秘密警察の仕事をする様になるのだった。

冒頭で、ルシアンに居場所がない様を丁寧に見せているので、彼が秘密警察に取り込まれていくのも、さもありなん、という感じだった。
ここら辺は、ちょっと前の日本でも、家庭に居場所のない子供達が暴力団に取り込まれていた様子とそっくりな感じがする(最近は半グレだが)。
古今東西、こういう法則っていうのは変わらないと思う。

そして、秘密警察の仕事を始めたルシアンは、あるユダヤ人家族と知り合う。
パリから逃げてきたその一家は、元高級仕立て屋だったらしく、貴族とも知り合いだし、娘の方もシャンパンの味や飲み方も心得ているお嬢様。
この娘に恋焦がれたルシアンは銃で脅したりして、恋心を伝える。

このユダヤ人の娘フランスは、パリから逃げてきたというのに、秘密警察の前で親からお金をもらったり、ルシアンの学の無さをバカにしたりと、お嬢様感が全然抜けていない子。
この二人が結ばれたのは、ルシアンの秘密警察の権威を恐れたというよりも、フランスがユダヤ人というだけで迫害される事に辟易していて、ただ自分の美しさに恋心を伝えてきたルシアンに、心を許したからの様に思えた。
でも、この二人、平時に知り合ったら、絶対にカップルにならないよね。
もし無事に終戦を迎えられたとしても、価値観の違いで絶対に別れてしまうと思う。

私が分からなかったのは、なぜ仕立て屋がわざわざあそこに行ったのか。
一応幹部も、知り合いだったから金ずるにはしていたけれど、居場所は隊に報告していなかった訳だから、仕立て屋が親としての怒りからだったとしても、直接ルシアンにも言えないのに、本部に行って何がしたかったのか?

この作品の舞台は、ルシアンが1944年6月に秘密警察に入って同年10月までの話なのだが、ノルマンディー上陸作戦があったのが同年6月。
パリ解放が同年8月で、家政婦までもがドイツはアメリカに負けると言い切っていたので、
何故この賢そうな仕立て屋さんが、あの時期にああいう行動を取ったのかが分からなかった。もうちょっと待てば良いだけだったのに…。

そして、ラスト近くで、寝ているルシアンの傍でフランスが石を掴んだまま立っていたのは、やはり父を助けられなかったルシアンを、心の底では許してないのでは…と感じられ、不穏な空気が醸し出されていたので、
もしかしたら、レジスタンスにフランスが売ってたりして。

エンディングロールのテロップでは、「裁判によって…」と書かれていたが、対独協力者は数万人がリンチによって殺されたそうだから、本当のところは分からないかも。
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