ひでやん

ドッグヴィルのひでやんのレビュー・感想・評価

ドッグヴィル(2003年製作の映画)
4.0
限られた空間の中であぶり出す人間の醜悪。

白線とわずかな家具だけで町を作るトリアーに冒頭から思わず笑ってしまったが、同時に不安に襲われた。こんなふざけた設定とナレーションによる進行で3時間走り抜くのかと…。痛々しい「ごっこ」に感じてしまうとトリアーの実験は失敗に思えたが、悔しいけど一つの舞台として見入ってしまった。

小さな炭鉱町に美しい女性の逃亡者が逃げ込んでくる。町の人々は彼女を温かく迎えたものの、いつしかその関係が変わっていく。平穏な日々を送る田舎者たちの中で、都会からやって来た金髪の女性は明らかに浮いている。その浮いた存在をどのように受け入れるか、そこに集団心理の恐怖を描くトリアーは流石だ。

閉ざされた小さな世界にある共同意識の輪。よそ者がそこに入る構図は職場や学校にも当てはまる。善意に満ちた輪の中では誰もが手を差し伸べ、悪に満ちれば罪の意識が消えていく。多数派に身を置くと孤立しない安心感を覚える。イジメの構造がまさにそれで、一緒に渡る赤信号。

変化に乏しいのっぺりとした舞台だが、様々な舞台演出によって時間の経過や季節の移り変わりを感じる事ができる。壁を取っ払った事で「今、この瞬間」に起きている全てを一画面で見る事ができ、他人の生活を覗き見している気分にもなる。

守る側と守られる側という関係性は崩れ、支配する側と服従する側へと変わっていく。そして自分は欲望が渦巻く集団の中で散々彼らに同調した後、今度は奴隷の諦めと屈辱をたっぷりと味わった。善良な人々は悪となり、素姓の知れない危険人物は可哀想な善人となる。そんな善と悪の逆転現象によって、胸糞悪いはずのラストにスカッとしてしまった。

トリアー作品は鑑賞後、心に影を落とす。
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