Tラモーン

ストレンジャー・ザン・パラダイスのTラモーンのレビュー・感想・評価

4.0
『ダウン・バイ・ロー』に続き再レビュー。

めちゃくちゃ面白かった…!数年前に観たときはよくわからなかったけど、今回はまったくダレずに食い入るように観てしまった。

The New World
空港に降り立ち不安気なエヴァ(エスター・バリント)と、おばさんからの電話に不満気なウィリー(ジョン・ルーリー)の対比からなんだか面白い。
"I put spell on you〜♪"なんて不気味にスクリーミン・ジェイ・ホーキンスを流しながらニューヨークを歩くエヴァを追う真横からのカメラワークがお洒落過ぎて痺れちゃう。でもエヴァは歓迎されないんだろなという気の毒さと、なんでその曲やねんというモヤモヤと不安を抱えたオープニング。なんでハンガリーから初めてアメリカに来てお迎えもなく少女が1人で親戚の家に辿り着けんねんというツッコミはジャームッシュには野暮か。

迎えるウィリーはすっかりアメリカに染まっていてハンガリーにいた頃のベラという名前を捨てていた。ルードボーイみたいなカッコをして、TVディナーを食べ、ギャンブルに明け暮れる。きっと自由を求めてニューヨークに来ただろうに彼の生活は決して楽しそうではない。むしろ退屈なものにすら見える。これはジャームッシュなりのアメリカってこんなもんよってことなのか。
10日もニューヨークに滞在しなければならないと聞いたときのエヴァの"10日も?…10日?"の反復とそのあとの電話の伝言のウィリーの"クーガイ?…クーガイ?"の反復がなんだかまた面白い。

ウィリーに邪魔者扱いされつまらない日々を過ごすエヴァ。部屋でホーキンスの曲をかけながら踊る姿が最高にキュート。タバコ吸ってる横顔がとにかく絵になる。
ウィリーもエヴァが鬱陶しいんだけど、実は気にかけてあげる優しさは持ってたりする。
エヴァがTVディナーとタバコを持って帰って来たのをきっかけに少し素直になって打ち解け始める2人が可愛い。
いとこ同士でなくても、人間が打ち解けていくのってこんな感じだよな。

とは言えどことなく2人は噛み合わない。エヴァはウィリーが買ってきたドレスが気に入らないしさっさとクリーブランドに行きたい。決してニューヨークが楽しいわけではない。ウィリーは素直に言わないけどエヴァといるのが実は楽しい。エヴァが出発した後、訪ねて来たエディとビールを飲むウィリーが寂しそうなのがなんとも笑える。ドレスは…残念だったな笑。


One Year Later
ポーカーでイカサマをして儲けたので舞い上がっちゃってノリで車でクリーブランドへ向かうウィリーとエディ。"どこかへ遠くへ行こう"なんて言いつつ実は「クリーブランドのエヴァのところ」へ行く気満々だったウィリーが可愛い。
運転席と助手席の2人を前から映すカットのカッコよさときたらなんだあれ。

エヴァはすっかりアメリカに馴染んでいてビリーというボーイフレンドもいる。4人並びでカンフー映画を観る様は最高だった。
でもエヴァはとにかく現状に退屈していて、ここから逃げ出したいと思っている。彼女も自由を求めてアメリカへ来た異邦人なのにすっかり自由とは縁遠い生活に落ち着いてしまっている。
"競馬で大儲けしたら私をさらいにきて"

ノリだけでエヴァを連れてフロリダへ向かうウィリーとエディ。ハンガリー語しか喋らないロッテおばさんの"Son of a bitch!!"がハッキリした英語で笑った。
この辺はとにかく生活のために貧しい祖国を捨ててアメリカに出てきた世代と、自由に憧れてアメリカに来た世代の差なのかなって気がした。退屈だ退屈だ言うウィリーたちが湖に行くときにロッテおばさんが"身投げしてきな!"って言ったのもそんな若い奴らへの皮肉なのかも。


Paradise
パラダイスなのは始めだけ。3人で嬉しそうにサングラスをかけるシーンだけはバカンス感たっぷり。そしてお洒落。
けれどもエヴァはモーテルに1人置いてけぼり。ウィリーとエディはいつもどおりギャンブルに明け暮れたうえ、見知らぬ土地で全額スって一文なし。これも"アメリカン・ドリーム"に辟易したジャームッシュのなりの日常なんだろうか。

エヴァが勘違いで大金を手に入れるところは笑ったなぁ。
結局3人はすれ違いでバラバラになっちゃうけど切なさはほとんどない。"あーあ"って感じで終わるのはこの作品が「ただの日常」を切り取ったからなのかな。


"新しい所へ来たのに何もかも同じに見える"
エディはなんかあると"あそこはいいとこだ"なんて、良く知りもしないのに言う。でも結局はその土地にはその土地での普通の生活があるだけ。それを退屈と捉えるか、愛おしく思うかはその人次第だ。


前に観たときと何が違ったんだろう。なんでこんなに面白く感じられるようになったんだろう。とても不思議な映画だ。
Tラモーン

Tラモーン