垂直落下式サミング

ストレンジャー・ザン・パラダイスの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.0
楽しく踊り出すような雰囲気も、かと言って完全に気取ったニヒルな感じもなく、どこか気だるげで間抜けな男ふたり女ひとりの旅を追うロードムービー。
各シークエンスがカットなしの長回しで撮られており、シーンの切り替えの都度、暗転する。
本作は、基本的に主人公の3人のキャラクターを中心にした話であり、他人が絡んできて何か起こり得る展開は極端に避けられている。
あくまで3人の話であり、他者は彼等に揺らぎをもたらし自発的行動を促すアイテムとして、ある種イベント的に配され、各シークエンスが「これまで」や「これから」とは切り離された「今」としてしか存在ないことを感じさせ、旅を見守る観客の視点をある意味で冷淡なものになるように誘導している。彼等の彼等しかいない、そして「今」しかない時間の唯一性が際立っている。
かといって他者や世界を拒むわけではなく、ただ通りすぎるように撮される「今」が消えていくのを、観客は見ているしかない。前述した独特の演出もこれと同様の効果を生んでいるように思う。延々と切れ目なく続くバカバカしさ、一旦時間が止まり一呼吸おいて語り出すようなぶっきらぼうさを感じさせるところに目的があるようだ。
やはりチームは少数で奇数がいい。多すぎるとカップルになったりならなかったりで忙しいし、コンビやバディとなると終着点はツーカーになってしまいどう打っても響く単純な関係になってしまう。旅する与太郎たちは、今その時の彼等でしかあり得ないような割りきれない関係性でいてほしい。
ジム・ジャームッシュという名前はある意味でカルト化しているが、初期の作品は一般受けするような「面白さ」ではけしてないとだけ言っておく。
嗜好品のような作品だ。お菓子やタバコと同じ、別に無ければ無いで困らないし、嗜んだところでお洒落なわけでも、栄養価が高いわけでもない。
カンヌだのカメラドールだのと変に気取らずに、誰でも適度に摘まめるところに置いておいてほしい。