次郎

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Qの次郎のレビュー・感想・評価

4.3
序破と続いて大問題作となったQ。前年に震災も起きたご時世もあってか、とにかく公開直後に見に行った人達がおしなべてお通夜状態だったのを覚えている。うっかり見てしまったストーリーのネタバレを長らく2次創作だと思って信じられなかった位の置き去り感は観客だけでなく庵野監督自身をも苦しめ、1年以上スタジオに行けなくなる程の鬱状態になっていたのは有名な話。自分自身、本作の公開翌月にファンだった兄が鬱からの自死を選んでしまったのもあり、どうにも向き合うまでにエネルギーを要する作品でもあった。

とはいえ、当時から8年以上立った現在のフラットな視点から見てみれば、こんなにもストレートにエヴァの魅力を引き出したエヴァは他にないのでは。先行公開されていた、冒頭における宇宙空間のアクションシーンは未だ追随を許さぬクオリティだし、14年後の世界を描いた明らかに説明不足なシナリオはシンジ君同様に観客を置いてけぼりにしながらも戦艦の造形や過去最大級に投入されるエヴァシリーズの大盤振る舞いといった具合に、作画演出面では間違いなく序破の系譜かつその進化系として成功している。

全般的に悲壮感の漂う本作だが、TV版の24話を90分に拡大したかのようにねっとりと(ピアノで)絡み合うシンジ君とカヲル君はやはり大きな見所の1つ。音楽に合わせてアニメの運指も動いているという作劇のこだわりも尋常ではなく、明らかに舞台的なピアノの置かれ方も含め、TV版ではひたすら内省的な演出だったエヴァがここまで暗いながらも開かれた演出へと昇華されているのは一種の喜びですらあった。

それにしてもQにおけるシンジ君は本当に酷だ。前作で望んだ形の代償を支払い、大人たちからは見捨てられ、希望を与えてくれた友人は手のひら返して謝りだす。全てはシンジ君の自己責任だ、と言ってしまえる位に現代の世相は非情に溢れてしまった訳で、公開から10年近く経った今、本当に壊れているのはQではなく社会のほうではという思いがどうしても拭えない。SNSに溢れる幼児的な身振りを思えば、本作に出てくる大人たちの理不尽さが自然にすら思えてくるのであり、2010年以降、10代の自殺者数が上昇している現実をひたすらに憂いたくなる。そんな歪みを先取りするかのように「壊れたセカイ系」とでもいうべき世界観で押し切った本作は、やはり現時点でのエヴァシリーズ最高傑作と言って間違いないだろう。
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