安堵霊タラコフスキー

ライク・サムワン・イン・ラブの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

4.5
キアロスタミが日本を舞台に撮った小品。

まず冒頭のバーの雰囲気が他の日本映画でも見られないくらい自然で、最初でんでんが出てきても一瞬誰かわからないくらいその場に同化していたのが凄かった。

タクシーから見える景色も実に印象的で、見慣れた東京の風景に彩りや風情が齎されていたが、特に広場で待ち惚けを食らう老婆の姿は実に哀れだった。

メインとなるコールガールと老人の交流も秀逸で、徐々に孫娘と祖父のような関係となっていく様は前作のトスカーナの贋作に通じるものがあって、女を追い回す加瀬亮に老人が本物の祖父の如く諭すシーンは実に面白かった。

小品ながらも人間の関係性や人間の住む空間についての描写が白眉な作品となっていて、最後も唐突ながら強烈なインパクトを残すもので、日本で撮ってもキアロスタミ節は健在だったと唸った。

ところでこの映画の撮影時期に来日していたキアロスタミが渋谷のドンキホーテから出て来る現場を目撃したのだけど、この頃彼の顔が朧気で本人という確信が抱けなかったせいでスルーしてしまったのが未だに悔やまれる。