サンヨンイチ

アルゴのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

アルゴ(2012年製作の映画)
5.0
人生ベスト級の作品だった為、
昨年鑑賞したものを再鑑賞。
2度見たとて流石の大作にして傑作。
とあるスキャンダルにより落ち目となってしまったベンアフレックの再生を語る映画であり、
映画の力で人を助ける、という映画讃歌でもあるとてつもなく素晴らしい作品です。


1979年、イランで発生したアメリカ大使館人質事件。
その舞台裏で秘密裏に行われていた
別の人質奪還作戦「アルゴ」。
それはCIAの中でも限られた者しか知り得なかった
大胆不敵、無謀な作戦、「映画」による人質救出だった。


人質は無事だった、という既成事実を前にしてそれを覆さんとする、
逃げるか、捕らえられるか、のシーソーゲーム。
起こり得ない緊張感を無理矢理引き出す
インシデントにアクシデントの有象無象。

冒頭より着火寸前のイランとアメリカの衝突。
ひと度火花が散れば大爆発を起こしかねない緊張感には、冒頭たった10分で取り込まれる魅力があります。
さらに次の10分で説明台詞による簡潔な状況説明。1幕目はハイテンポに進み
映画自体は省エネ、余力を残した状態で
クライマックスに向けて力を蓄える。

イランに入ってからは
史実とは大きく異なるトラブルの応酬。
作品としてのスリルを高めるために
ベンアフレックがトントンと丁寧に関門を立て、
関門をなんとか抜けたその先に
ずらっとハードルが並べられているような
ほとほと疲弊する道のりの長さ。
いっそ早く解決しれくれれば…
という願いむなしく、なかなか緊張感から解放してくれません。

史実を調べていくにつれ浮き彫りになる
映画『アルゴ』の脚色は、
脚色という範疇を越えて「嘘」にも似て異なるが、それがいい。
これはもはや事実に基づく物語ではなく、
事実からインスピレーションを受けたSFとすら言えるかもしれません。
事実とは異なる枝分かれがあったとしても
演出によってここまで多色的に展開できる、ということを教えてくれる作品だと思います。

対照的に
冒頭の映像や登場する人質の方々は
当時の写真や映像から忠実に再現しており、
本物と見紛うほどにクオリティを高める
映画の力も見せつけてくれます。

映画の世界はどんな数字を使っても
和差積商を自在に巧みに操り
どんな答えにもできる、という夢を魅せてくれる映画です。