シズヲ

荒野の誓いのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

荒野の誓い(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

余命幾ばくもないシャイアン族の首長を護送する旅路を描く現代西部劇。開拓史の反省=白人側の贖罪といった題材は流石に手垢が付いている感は否めないが、本作は“白人とインディアンの対立”という時勢に起因する傷心や葛藤に焦点が当てられている。開拓史批判西部劇でありながらもベトナム戦争以後の“戦争モノ”に近い手触り。旅路の中で白人の視点から対立構図を見つめる内容は『ワイルド・アパッチ』も思い出す。

クリスチャン・ベイルやロザムンド・パイクの抑制された演技は華やかでは無くとも堅実な魅力がある。そしてウェス・ステューディは『ジェロニモ』等でもそうだったけど、台詞こそ多くないものの佇まいに確固たる威厳があって実に渋い。美しくも過度にロマンチックに演出しない風景描写も味わい深く、そこにドライで容赦の無い暴力描写が加わることによって西部開拓時代の“荒涼とした殺伐性“が顕著に滲み出ているのが良い。あと「駅馬車は廃止された」という何気ない台詞が開拓期の終焉を物語っていて物悲しくも印象的。

登場人物らは根本の部分で理性的。大尉は仲間達を殺したインディアンを恨みながらも、憎悪に駆られて動くような場面は序盤を除いて殆ど見られない。家族をコマンチに惨殺された未亡人も早い段階で恐慌を乗り越えて首長一家とそれなりの交流を果たす。首長は死を間近に控えているためか、もはや達観の領域。みな己の中にある憎しみや哀しみを受け止めつつ、そういった“負の感情/敵対の線引き”の虚しさを潜在的に理解しているように見える。白人とインディアンの根深い対立が土壌にある西部開拓時代に託された“敵という存在の意味”、そして人種の垣根をも超越する“死への考察”が印象深い。

哲学を重ねることで一定の深みは与えられているもののテーマ性自体はある意味古典的なだけに、抑揚のない生真面目な話運びを楽しめたかというと微妙なところ。大尉らの心情の変化は見方によっては説得力に欠けるとも取れるし、唐突に悪役として現れる毛皮ハンターや土地の所有者などの描写は明確に引っ掛かる。テーマに対してインディアン側からのアプローチも少ないのが残念。それでも道徳性や憐憫に傾倒しすぎていないのは好感だし、現代西部劇としてトータルで手堅く纏まっている。未亡人と孤児の旅路に加わり、擬似的な“家族“へと帰属したであろうラストシーンは(客室の扉の中へと入っていくカットも含めて)『捜索者』の反転めいた味わいがある。

それと西部劇の字幕、近年では“先住民”という表現に移行していたけど本作では基本的に“インディアン”呼びなのが興味深い。実際AIMなどアメリカン・インディアンの権利団体や活動家はインディアンという呼称を推奨しているだけに(様々に見解があるので一概には言えないものの)こっちの方がしっくり来る。
シズヲ

シズヲ