いののん

荒野の誓いのいののんのレビュー・感想・評価

荒野の誓い(2017年製作の映画)
4.1
現代に於ける西部劇、として、大変に意味のある西部劇だったと思う。冒頭の、2つの場面で、“ああ、この映画は、両方の立場からみせるんだ”ということが、わかる。クリスチャン・ベイルが先住民の言葉を話せる設定になっていて、先住民の言葉にもしっかりと敬意を払っていることが映画を通して感じられて、それもとても良かったと思う。
私は、フィルマを始めてから、アメリカの先住民、と、ひとことでいっても、ホントはひとことで言うことなんて出来ないのだと知った。だけど私は、コマンチ族・アパッチ族・ナバホ族・そして今日のシャイアン族。このくらいしか、まだ言うことができない。


先住民にとっては、移植してきた白人こそが侵略者であり、白人にとっては先住民こそが敵である。立場によって見方が変わる。殺し合い、憎しみあい、奪ったり奪われたり。それを繰り返し、繰り返すことによる、負の連鎖。


クリスチャン・ベールの、言いたい言葉をぐっとこらえて、飲み込んでいる感じが好きだ。口を開いて言葉を紡ぎ出したら、友への思いや、その友を失った思いや、戦ってきた相手への憎しみや苦しさを、全部ぶちかましたくなるから、それらを全部飲み込んで、余計なことを言わない姿。黙して多くを語らず。野営しながら、静かに書を読む。


もう何もかもを失って動転しているロザムンド・パイクの、とにかく言う通りにしてさしあげる、クリスチャン・ベールには惚れた。男はそうでなくっちゃ。私が彼の部下だったら、信奉者になって、どこまでもついていっちゃう。


道中、吊されたり殺されたりしているコマンチ族をみて、クリスチャン・ベールがつぶやく言葉。そうか、そういうことだったのか!このあたりからいっきに面白くなる!
シャイアン族の酋長イエロー・ホークが、いかに魅力的で信頼に足る人物なのかも見えてくる。家族のいたわりあいも、奥ゆかしく素晴らしく。イエロー・ホークが、大地から気をもらっていたりとか、大地と真摯に向き合ってこられたのだなあと実感する。神様が状況を見ていらっしゃらない、この土地で。
不協和音のように入ってくるベン・フォスターの存在も良い。


1000マイル(およそ1609km)もの移動。渓谷や平原など、風景が、すばらしい。馬の疾走シーンはほぼなくて、ゆっくりゆっくり歩く。ゆっくりゆっくり歩きながら、登場人物たちの心情も、同じような速度で動いていく。いたわることも、思いやることも、同じような速度で。対して、銃の撃ち合いは、音も凄くて、10回くらいはビクンビクン反応してしまいました。


このラスト、好き。
いののん

いののん