人生で最も愛している映画。
ヴィンセント・ギャロによる、監督、脚本、主演、音楽。
コントロール・フリークで完璧主義者だと、自らも認める彼が、全てにおいてこだわり抜いて、生み出した、唯一無二の作品。
ある種、青春映画でもある。
1999年の夏、日本公開時のキャッチコピーは
「最悪な俺に、とびっきりの天使がやってきた」
というものだった。
冬のバッファローでの、たった一日の物語。
「ラスト10分のラブストーリー」
という謳い文句でも宣伝されていた。
初めて観た時のことは、今でも鮮明に覚えている。
渋谷PARCOのシネクイントにて、記念すべき杮落とし作品として華々しく公開された「バッファロー’66」。
リピーター続出で、若者たちに大人気だった公開当時、熱気あふれる映画館の、満場の客席の中、期待に胸を膨らませながら観た。
前評判の高さから、ハードルはかなり上がっていた。
が、その期待が裏切られることは無かった。
寂しげな曲の流れるオープニング。
雪の舞う灰色の寒空の下、刑務所のゲートから出所する、主人公のビリー・ブラウン。
1966年のバッファロー生まれ。
無精髭を生やした、オールバック頭でしかめっ面の彼は、荷物も無く、薄着で凍えて、スキニーパンツのポケットに両手を突っ込んだまま、バス停のベンチに腰掛ける、と同時に、尻の割れ目が露出する。
確信した。
この映画、絶対に面白いぞ、と。
滑稽味のある表現が、あからさまな形ではなく、極めて自然で、さり気なかったことに、好感を持った。
もしかしたら、思い込みにも近いような、こちらの勝手な解釈かもしれないが、この尻の割れ目の露出はきっと
「今からお前たちを楽しませるぞ」
といった、我々観客たちへの宣言、或いは、目配せだな、と直感した。
実際、その宣言通り、一秒たりとも退屈すること無く、最後の最後まで、心の底から物語を楽しむことが出来た。
個性豊かで、どうかしてる、登場人物たち。
オフビートながらも、意外性のあるプロット展開。
様々な趣向が凝らされた、ユニークだったり、シリアスだったり、マジカルだったり、ロマンティックだったりする演出。
彩度の抑えられた、味わいと色気のある、ノイジーでレトロな映像。
アグレッシブで遊び心のある、構図とアングル、カット割り、画面サイズ、ワイプ。
独特な編集のテンポと黒味の使い方。
宅録で仕上げられた、こだわりのサントラ。
劇的なシーンで効果的に使われる、イエスとキング・クリムゾンの名曲。
白い雪の中、差し色になって格好良かった、赤いブーツ。
驚くべき、アナログでユニークなストップ・モーション。
魅力を挙げれば切りが無いほど、全てが新鮮で、大興奮した。
あまりの面白さに耐え切れず、二週間後、再び観に行ったほどだ。
一度目は、神経質で偏執的な童貞、ビリーの視点で観たが、二度目は、母性の塊のような天使、レイラの視点で観た。
愛を知らなかった男が、ひとりの女との出会いによって、愛に目覚める。
まるで、温かなココアのように甘く、ハート型のクッキーのようにロマンティックな愛。
愛は人を変える。
たった一日で。
憎しみを溶かす愛。
生きる希望となる愛。
素敵じゃないか。
「恋人が待ってる」
それ以上の何を望む?
最高じゃないか。