たけひろ

バッファロー’66のたけひろのレビュー・感想・評価

バッファロー’66(1998年製作の映画)
5.0
人生で最も愛している映画。

ヴィンセント・ギャロによる、監督、脚本、主演、音楽。

コントロール・フリークで完璧主義者だと、自らも認める彼が、全てにおいてこだわり抜いて、生み出した、唯一無二の作品。

ある種、青春映画でもある。

1999年の夏、日本公開時のキャッチコピーは

「最悪な俺に、とびっきりの天使がやってきた」

というものだった。

冬のバッファローでの、たった一日の物語。

「ラスト10分のラブストーリー」

という謳い文句でも宣伝されていた。

初めて観た時のことは、今でも鮮明に覚えている。

渋谷PARCOのシネクイントにて、記念すべき杮落とし作品として華々しく公開された「バッファロー’66」。

リピーター続出で、若者たちに大人気だった公開当時、熱気あふれる映画館の、満場の客席の中、期待に胸を膨らませながら観た。

前評判の高さから、ハードルはかなり上がっていた。

が、その期待が裏切られることは無かった。

寂しげな曲の流れるオープニング。

雪の舞う灰色の寒空の下、刑務所のゲートから出所する、主人公のビリー・ブラウン。

1966年のバッファロー生まれ。

無精髭を生やした、オールバック頭でしかめっ面の彼は、荷物も無く、薄着で凍えて、スキニーパンツのポケットに両手を突っ込んだまま、バス停のベンチに腰掛ける、と同時に、尻の割れ目が露出する。

確信した。

この映画、絶対に面白いぞ、と。

滑稽味のある表現が、あからさまな形ではなく、極めて自然で、さり気なかったことに、好感を持った。

もしかしたら、思い込みにも近いような、こちらの勝手な解釈かもしれないが、この尻の割れ目の露出はきっと

「今からお前たちを楽しませるぞ」

といった、我々観客たちへの宣言、或いは、目配せだな、と直感した。

実際、その宣言通り、一秒たりとも退屈すること無く、最後の最後まで、心の底から物語を楽しむことが出来た。

個性豊かで、どうかしてる、登場人物たち。

オフビートながらも、意外性のあるプロット展開。

様々な趣向が凝らされた、ユニークだったり、シリアスだったり、マジカルだったり、ロマンティックだったりする演出。

彩度の抑えられた、味わいと色気のある、ノイジーでレトロな映像。

アグレッシブで遊び心のある、構図とアングル、カット割り、画面サイズ、ワイプ。

独特な編集のテンポと黒味の使い方。

宅録で仕上げられた、こだわりのサントラ。

劇的なシーンで効果的に使われる、イエスとキング・クリムゾンの名曲。

白い雪の中、差し色になって格好良かった、赤いブーツ。

驚くべき、アナログでユニークなストップ・モーション。

魅力を挙げれば切りが無いほど、全てが新鮮で、大興奮した。

あまりの面白さに耐え切れず、二週間後、再び観に行ったほどだ。

一度目は、神経質で偏執的な童貞、ビリーの視点で観たが、二度目は、母性の塊のような天使、レイラの視点で観た。

愛を知らなかった男が、ひとりの女との出会いによって、愛に目覚める。

まるで、温かなココアのように甘く、ハート型のクッキーのようにロマンティックな愛。

愛は人を変える。

たった一日で。

憎しみを溶かす愛。

生きる希望となる愛。

素敵じゃないか。

「恋人が待ってる」

それ以上の何を望む?

最高じゃないか。
たけひろ

たけひろ