なべ

千年女優のなべのレビュー・感想・評価

千年女優(2001年製作の映画)
4.0
 新文芸坐が改装のため2カ月間休館する。その直前のプログラムで「千年女優」と「パプリカ」という強力な2本立てがあったので観てきた。どちらもディスクは持ってるが、スクリーンで観るのは初めて。

 一陣の風が吹き抜けるような映画。原節子(あるいは高峰秀子?)めいた大女優の生涯を振り返りながら、タイムラインを行き来する語り口がとても心地よい。ときに軽妙、ときに重々しくメリハリを効かせた演出が冴え、最後まで息切れしない。今敏の作画のタッチが写実的だからか、アニメならではの演出がふんだんにあるのに、どこか味わいが映画的だ。
 この作品、とにかく主人公が走る。少女から老婆へと駆け抜け、戦前から戦後へと時代の風を切る。もちろん虚実の輪郭を巧みにぼかす今敏スタイルは健在で、藤原千代子の出演作を追いつつ、いつの間にか立花源也や井田恭二もシーンを共有し、そこかしこに縫い込められた鍵の君の足跡に翻弄される。逃亡する鍵の君、彼を追いかける千代子、千代子を追う立花源也。物語自体が疾駆していて、物理的移動感がダイナミズムを生み、時代の推移が郷愁を誘う。この巧妙さが千年女優のたまらない魅力なのだ。

 「あの人を追いかけてるわたしが好き」

 ぼくも初見ではそうだったのだが、このラストのセリフでへ?となる人いません? ここをきちんと掴まないとこの物語はなんとも締まらない。
 ぶっちゃけ、「あの人」とは「映画」そのもののことだ。劇中、何度も出てくる鍵の君に顔がないのはメタファーだから。小狡い監督と引き立て役の女優の策略で鍵をなくして(=演じることをやめて)しまった千代子が、死の間際に再び鍵を手に入れ、自己を肯定し、映画への愛を高らかに宣言するキメ台詞。未完に終わったロケットの打ち上げシーンで表現されるものだから、死のシーンにも関わらず、生命のほとばしりを感じずにはいられない。ポジティブなエナジーを全身に浴び、平沢進の楽曲に包まれてエンドロール。気持ちいい。胸糞なパーフェクトブルーとつくりは似ているけど、ポジティブに反転しているだけで、こんなにいい気分になれるんだな。
 ほんとは平沢進の楽曲はちょっとドンキの圧縮陳列のようでうるさくて好みではないのだが、それでも、映画館での鑑賞は格別。今回はフィルム上映だったので、傷やホコリが目立ったが、映画の話なので逆に説得力があった。
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