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過去を逃れてのmasatのレビュー・感想・評価

過去を逃れて(1947年製作の映画)
3.5
イケてるぜ、ジャック・トゥルヌール。
フランスから、ヨーロピアンな陰翳をハリウッドへ持ち込み、猫、豹、黒人の奇怪な闇に蠢くモノたちを低予算で活写・・・当時の観客たちはさぞかし気味の悪い思いをした事だろう。

そんなトゥルヌールが、ファムファタルでノワールな、まさに堕ちて行く男と女の、これぞ“フィルム・ノワール”を撮り、ここに自身の代表作を完成させた。
同時に、ホラーが巧い奴は、なんでも巧い、と言う事を実証した。

デニス・ホッパーの50年代ノワール・オマージュの傑作『ホット・スポット』(91)を思わせるクライマックスなのだが、いやいやラストはそんな程度ではなく、半端ない“破滅”が待ち受けていた。

愛しているのかいないのか?本心から裏切ったのかどうか?さらに裏切るのか!?
そんなグレーゾーンを行き交う、危うい感情に乗せられ、サスペンスフルに振り回される。

ファムファタルのジェーン・グリア、その妖しい陰翳の輝きにヤラれる。この生への執着の凄さ、自己愛の塊、心底愛した男でも道具と化させていく異様さ・・・そうと知っていて、巻き込まれていくロバート・ミッチャム、その“情け無さ”こそが、フィルム・ノワール、探偵もののその後のスタイルを決定付けた!
それにしても、このクライマックスの顛末は究極、と言えよう。

さらにエピローグにおける、置いて行かれたもう一人の女へ見せる、ガソリンスタンドの聾唖の青年の“優しさ”が、ほんのり希望を香らせ、ニクい。
この青年の冒頭の登場シーンや、急に強さを発揮する瞬間など、この暗黒世界にユーモアを齎らし、映画をより豊潤にしていた。
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