マカ坊

過去を逃れてのマカ坊のレビュー・感想・評価

過去を逃れて(1947年製作の映画)
3.9
第二次大戦前後に量産されたフィルムノワール。

戦場へ行ってしまった男達。

必然、労働力が足りなくなるので好むと好まざるとに関わらず女性の社会進出は進む。

戦争が終わり癒しを求め帰還した男達は「家庭」の外で活躍する女性たちに戸惑い、畏れる。

今以上に「男の現場」だったであろうアメリカ映画界がこうした時代背景のもと、女性への憧れと嫌悪を混ぜこぜに投影した、いわゆるファムファタル、運命の女・魔性の女という女性像を頻繁に用いたというのは確かに興味深い。

そんなミソジニー全開なノワールの中でも流石に今作のジェーン・グリアは男にとっての「悪女」を体現させられ過ぎじゃないか? あまりにひどい扱いに正直ちょっと失笑。

しかしそれを差し引いてもやっぱり名作と言われるだけあって流石に見応えがあった。

上映時間約100分の内、前半40分は回想で後半60分は騙し合い。割と込み入った展開をこのタイトな構成にきっちり収めるだけでもすごいけど、いちいち気の利いたショットとか男女のリッチな視線のやり取りとかを的確に観せてくれる。

やっぱりあの帽子ポーイ&照明バタンからの扉バーン・嵐ブォーはちょっとすごい。

そしてタバコ。

吸う仕草はもちろん、その「煙演出」は見事。空気中にとどまる時間まで計算されてんじゃないかと思うほど色気を持ってたゆたう煙。

「シャッターアイランド」撮影に際してスコセッシが役者陣にこの映画観ろと言ったらしいけど、なるほどプリオ達の佇まいは勿論、特にこのタバコと煙の演出はもろに影響を感じる。

洒落たラストシーンも抜けが良く、鑑賞後の余韻も心地よい。

いろんな良い映画があるんやなー世の中には。
マカ坊

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