コーカサス

血のバケツのコーカサスのレビュー・感想・評価

血のバケツ(1959年製作の映画)
4.5
“本物志向”

芸術家が集まるカフェで働きながら、彫刻家になることを夢見る青年ウォルター (ミラー) は、ある日アパートの大家が飼っている猫を誤って殺してしまう。
混乱した彼は罪を隠すため、死骸を粘土で塗り固め「死んだ猫」というタイトルでカフェに出品するや否や、何も知らない常連客や今まで彼を馬鹿にしていた芸術家たちから絶賛を受け、一躍大スタアへと変貌を遂げる。
晴れて?芸術家の仲間入りを果たし、次回作「殺された男」を完成させると、彼の“創作意欲と活動”は益々エスカレートし、立て続けに“作品”を仕上げ発表していくが、その行く末には…。

今ではすっかりメジャー監督として根強いファンを持つ (筆者もそのひとり!) “B級映画の帝王”ロジャー・コーマン監督が、その異名を存分に見せ付けた初期のホラー作品である。

一見、コクトーが撮れば詩的で美しく、品の良い文芸作に化けそうな物語を、あくまで通俗的でグロテスクに、風刺を込めて描き切るスタイルがいかにもコーマンらしく魅力的だ。

ちなみに、本作の予算はたったの5万ドルで、撮影日数は僅か5日間とのこと。
しかも、のちに彼の代表作となる『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』を2日間で撮影し終え、そのセットを丸ごと流用して完成させたというのだから、ただただ驚くばかりである。

観終わると、ふと阿刀田高の小説「ナポレオン狂」を思い出した。
ナポレオンに関する熱狂的なコレクターが最後手にするお宝は、どことなく本作の主人公ウォルターに似ている。
彼の“遺作”を目にした時、あなたも私も改めて“ホンモノ”には敵わないことを知るだろう。

262 2020