ろくすそるす

狼獣(けだもの)たちの熱い日のろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

 これぞ我が犯罪映画部門オールタイム・ベストの大傑作。『狼たちは天使の匂い』は男たちの「遊び」を通しての哀愁を描いた傑作だったが、人間の醜悪さと哀愁を描いた挽歌のような本作の方が、私の心に響いた(好みの問題ではあるが)。
 リー・マーヴィン扮する通称極悪非道の強盗・コップが大金を盗み、逃げ込んだのは、かつて大型艦隊の船長であった男が開拓した農地である。だが、田舎の農家は、実は欲望にまみれた狼獣たちの住む家だった(舞台はフランスではあるが、どことなくアメリカのいわゆる「南部ゴシックもの」を彷彿とさせる)。
 色情狂の義姉、老人ホームに捨てられるのをビクビクする老婆の召使い、淋病を患う抜け目ない義兄、金には目がない雇い人の黒人、豚のように欲情する野卑な夫と彼に虐げられた美人妻。彼女は地主の一人娘であり、所構わず自分を犯す下品な夫を恨み続けている。
 そして、彼女の息子はアウトロー気取りのかなりませた少年。演じるのは『ブリキの太鼓』でオスカル役であったダーフィト・ベンネント。コップの隠した大金を見つけ、娼館で豪遊するという子供ながらに油断できない奴である。
 そんな人間たちにヘリコプターでコップを追う刑事たち、裏の畑でヌードになるスウェーデン人の娘たちが巧妙に絡んできて、非常に恐ろしい結末を迎える。
 欲と憎悪と絶望と勘違いで死にゆく者たち。大金の移動、殺人に次ぐ殺人で二転三転するシナリオ。最後に得をするのは誰かも注目したいが、これらを複雑なシナリオを巧みなカメラワークと演出によって破綻なく分かりやすく描ききったところに作品としての真価があると思う。
 『北国の帝王』のかっこいいマーヴィンとは少し違う、血も涙もない「完全なるアウトロー」としての彼の演技も良い。
 たしかに、アクションにしては狭い範囲内で完結する話であるかもしれない。けれども、ドラマにこれほど実りがあるのは、展開のテンポであるし、キャラクターの個性だと思っている。