koya

ジェシー・ジェームズの暗殺のkoyaのレビュー・感想・評価

4.0
誰にでも、誰かに憧れる・・・というのはあるのではないでしょうか。
憧れというのは現実になってしまうと・・・どういうことになるのか。
憧れは憧れという美しい形のまま・・・残しておいたほうが、そしていつの間にか過去のものになったほうがいいのではないか・・・そんな事を思いました。

 ジェシー・ジェームスというのはアメリカでは有名な19世紀の強盗・殺人犯。ただし、それは物語化されて、いつの間にか、アウトロー的なヒーローになってしまっている。
実際は、どんなに警察が捕まえようとしても巧みに逃走し、捕まることがなかったジェシー・ジェームズを殺したのは・・・手下のひとり、ロバート・フォードという青年でした。

 この映画は、逆光の映画です。
光に照らされて、影だけがくっきりと映る姿が多いのです。
それは、本当の顔がわからない、虚ヒーローとしてのジェシー・ジェームズをあらわしているかのようです。

 ロバートという青年は19歳で、ジェシー・ジェームズに憧れて、憧れて・・・とうとう手下になります。
ロバートを演じたのがベン・アフレックの弟、ケイシー・アフレックですが、ジェシー・ジェームズを演じたブラッド・ピットも堂々としていたけれども、主役は、このロバートだと思いました。

 兄(サム・シェパード)とジェシーは列車強盗をたくらむ、その仲間に入れてもらうのですが、うーん、と思ったのは、若造ロバートの歯が黄色い・・・ということですね。
ジェシー・ジェームズを演じたブラッド・ピットは、いつも葉巻をくわえていても、真白な歯をしていますが、ケイシー・アフレックの歯は黄ばんでいるのです。
それがなんともリアルというか、貧しくて、洋服もボロボロで・・・そんな低い身分をあらわす黄ばんだ歯。

 最初はあこがれの人と一緒になれて喜んだものの、現実のジェシー・ジェームズという人はそんなヒーローではなかった。神経質で、気分のむらがあって、やられる前に何のためらいもなく手下を見捨てて、見殺しにする、または自分の手で殺していく・・・・そんな虚像から実像を知ってしまったロバートはだんだん、恐怖の思いにとりつかれる。
突然、前触れもなく姿をあらわすジェシー・ジェームズに恐怖しか感じなくなる。

 ジェシー・ジェームズにはもう懸賞金がついている・・・そんなことからも、とうとうロバートはジェシー・ジェームズを「背後から撃つ」
この背後から撃つ、というのは、西部劇などで、卑怯なやり方・・・とされているわけですね。
でも、この映画はそこでは終わらない。

 ロバートは、ジェシー・ジェームズを暗殺したことを「芝居」にして自分が主演で「ジェシー・ジェームズ暗殺」というお芝居で儲けてしまうのです。
しかし、世間は、あくまでも「悪のヒーロー」ジェシー・ジェームズ人気が強く、とうとう、ロバートは原題にもあるように「卑怯者」のレッテルを張られてしまう悲劇。

 ジェシー・ジェームズに憧れる、本物のジェシー・ジェームズが怖くなる、暗殺をネタにして卑怯者・・・・映画は大まかにこの3つの部分にわかれますが、びっくりしたのは、最後のロバートの顛末。
ロバートを演じたケイシー・アフレックは、最初は無垢で子供扱いされていても、だんだん、脅え・・・そして暗殺・・・そして有名になるかと思うと卑怯者となじられる・・・というとても繊細な「卑怯者」を演じていてとても印象に残っています。

 この映画はカナダでロケされたそうですが、冬のシーンがとても多いのです。
冬の映画、とも言えます。
19世紀だから、写真だって、情報だって・・・発達していないのに、いつも雪の中を馬に乗って現れるジェシー・ジェームズ。
嘘が嘘を呼んでそれが、怖くなり、追い詰められていく若者。
ジェシー・ジェームズは暗殺されても、知名度、人気は高まるばかり・・・そして、指名手配の強盗犯を殺したのだから、「正義」のはずのロバートの堕ちていく様。なんとも皮肉な人間の心理を描いている映画でもありました。
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