日本ではかつてVHSが発売されて以降、DVD化も配信もされていない。隠れた良作でもなく、カルト的人気がある駄作でもなく、忘れられた映画。しかし、たしかにそれは存在したのである。せめて、広大なネットの荒野にひっそりと、墓石がわりのログを残してあげたいと思う。
・あらすじ
富豪が隠した財宝を手に入れるため、バキュームカー、パトカー、プロペラ機がアメリカ中で追いかけっこ!
・解説
なんとまぁ~下品な映画! トイレが爆発して辺り一面屎尿だらけになったり、バキュームカーを運転する主人公の車に近付くと、「爆弾投下!」の掛け声とともに屎尿を噴射されたり。全編こんな感じのうんこおしっこギャグが面白効果音(牛の鳴き声!)とともに延々繰り返される駄コメディ。
監督はアンドリュー・J・キューン。本職は予告編制作者で、かなりの凄腕として名を馳せた人らしい。
かつて映画の予告編は本編の映像を切り貼りしただけの単純なものだった。しかし、64年にキューンが制作した『イグアナの夜』の予告が業界に革命をもたらすことになる。スタイリッシュでスピーディーな編集はそれ自体で一つの映像作品になっていたのである。
キューンは68年に予告編制作専門の会社を立ち上げ、『ジョーズ』(75)、『スティング』(73)、『タクシードライバー』(76)等、数々の名予告編を手掛けることになる。メジャー映画会社はこぞって彼に予告編を依頼し、業界内での評価はうなぎ上り。まさに絶頂のそんな時、彼は思った。「自分の才能を別の形で証明してやりたい」。そこへ、渡りに船で低予算コメディを監督する話が舞い込み――『フラッシュ!』は作られてしまったのである。
公開された映画の評判は散々なものだった。名作コメディ『おかしなおかしなおかしな世界』(63)のパクリじゃねーかと言われ(なんせまんまなんだもの。フィンランドでは『クレイジーなクレイジーなクレイジーな世界』という副題が付けられてしまう始末)、これでもかというほど辛辣な評価を受ける。そして何より、依頼した予告編をほったらかして、こんな映画を作りやがって! と、会社のクライアントからめちゃくちゃ怒られてしまった。
完全なる失敗作を作ってしまい、監督業には懲りたはずのキューンだったが、なんと7年後に『ザッツ・ショック』(84)という作品を発表する。これが中々どうして、まさかの良作。 実はこの作品、ホラー映画の名シーンを繋ぎ合わせてマッシュアップした総集編映画なのだ。緩急をつけた編集のテンポが素晴らしく、ともすれば各映画本編よりも観るのが楽しい。やはりキューンは予告編の天才だったのだ。