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なんだかおかしな物語/ボクの人生を変えた5日間のchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

3.0
閲覧注意:ネタバレはありませんがこのレビューは作品の楽しい世界観を粉々に破壊している可能性があります。十分にご注意を!

ネッド・ヴィジーニ著のティーン向け同名小説の映画化で、自殺企図のあるうつ病の高校生が精神科病棟へ短期入院し患者達との温かな交流を通して希望を見出していく姿をポップでコミカルに描く。原作者は自分の入院体験を描いた小説で話の85%はそのままと語っておりなかなかのリアル度です。が、リアルであれば「なんだかおかしな物語」にはならないはず。

この作品には全くリアリティがありません。そもそも入院時点でクレイグは入院が必要には全然見えない。入院した病棟にいる患者は二極化しています。クレイグ同様全く精神疾患があるようには見えない普通の患者と、明らかに言動が変でいかにも精神疾患で入院してそうな患者。入院早々クレイグは「自分から入院したものの、やっぱり気分がよくなったから入院はいらないと思う」と訴えますが、却下されます。いや、クレイグ君めっちゃ普通だから退院させてあげたらいいんじゃね?ここで勘のいい観客は気づく。この物語はうつ病患者クレイグの頭の中を通してみた世界で客観的な現実世界ではないのだと。だからこの映画は「なんだかおかしな物語」になるのです。

これでこの映画のリアリティのなさの説明がつく。うつ病の症状がひどくないのに入院できるはずはなくクレイグの症状は深刻です。本人の自覚が薄いだけ。彼は自分の頭の中で起こっていることが深刻な病状であると認識できていないので、自分と似たような症状の患者は普通の人にみえて、自分と異なる症状を持つ患者は病人にみえるのです。それがこの映画に出てくる患者が二極化している理由です。クレイグには症状悪化の特定のきっかけが思い当たりませんが、医師に指摘されたように問題は怠薬。また短期間の入院で病気は治らない。ましてや患者との交流だけで治るなんてことがあるなら、世の中の患者みんな入院させて交流してもらえばいいですがもちろんそんなはずもない。同じ境遇の患者達との交流は心地よいものであったでしょうが、クレイグが入院を通して回復したように感じているのは単に服薬再開の効果であり疾患そのものが治癒したわけではないと考えるのが普通です。ただ本人がそうは思っていないのはこの映画から明らか。

この映画で思い出すのは私も大好きな「世界にひとつのプレイブック」。パットとティファニーも、自分の疾患を否認し治療を拒絶し似た症状同士でつるみ「私たちって周りが思うような病人じゃないよね」と確認しあって仲良くなり、ダンスをして心を通わせ幸せをつかみます。現実的に考えると二人の疾患は治っていないでしょう。でも「世界にひとつのプレイブック」は完全なフィクションなのでそれでいい。
残念ながら原作者はこのフィクションと同じ道を地で行ってしまっているのです。そして退院後すぐにこの作品を書き上げる。いかに精神疾患において自分の病状を客観視することが難しいかを思い知らされる映画。原作者の末路については他の多くのレビューアーがすでに書かれているので省略します...

いや、でもご心配なく。映画としての出来はまずまずだし微笑ましいシーンはたくさんあって、早々に頭を切り替えて単なる青春モノとして楽しめました!(何か無理矢理やな...)
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