ninjiro

悪魔のninjiroのレビュー・感想・評価

悪魔(1972年製作の映画)
4.5
冒頭から、ずーっと地獄絵図。

ズラウスキーのどの作品(知る限り)にも言えることだが、この異常なテンションは何だろう?
作画的なことで言えば、手持ちカメラによるテンション作りは深作欣二始めその類があるが、それは要所要所の瞬間沸点の表現としての真っ当なテクニックである。

この作品の中身は、その撮影の異常なテンションと、異常なシチュエーション、不安感を煽る狂った伴劇、そしてキャストの演技がそれぞれが異常なテンションで発狂したように怒り悲しみ我を忘れ喋り叫び、時に猥雑であり、時に善悪を通り越した彼岸にあるような、押し並べて誰一人まともな人間が居ないという、全てが異常な状態で、徹頭徹尾カオスに満たされた、狂気の空間である。
この空間に於いて、ズラウスキーはどのようにこの狂った演技を演出したのか、そもそもちゃんとしたプランやプロットがあって撮影をしたのだろうか、と疑いたくなる程の、迫真の狂気の見本市である。

自分が普通の感覚の持ち主である、と自信を持って言える人は、本作を絶対に観てはいけない。

そんじょそこらの視覚的グロを観る耐性とは比較にならない程、人を人とも思わぬハイパーな背徳に対する耐性を要求されたかと思えば、おぞましいの程の対人執着を見せつけたり、自由自在、麻薬的な狂気の浮遊感は、確実に脳の一部を痺れされる。

筋を追ってもどうやっても整然と意味が通じないことばかりだが、これも最早この監督の個性である。
さっきまでの清廉の君子然とした者が次の瞬間狂ったように喚き、恐ろしい勢いでのたうち回り、全く理屈に合わないことを理屈として当たり前に行動原理とする異様な世界。
まさに悪夢とはこのような世界である。

この世ならぬ、まさに地獄のような世界を行脚する主人公と我々。

悪魔とは一体誰のこと?
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