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アメリカを売った男のtorakoaのレビュー・感想・評価

アメリカを売った男(2007年製作の映画)
2.5
主に冷戦時代、ソ連(崩壊後はロシア)に機密情報を売り渡していたFBIの人物ロバート・ハンセンが逮捕された実話ベースの話。一応。

1985年10月 ソ連に初接触
(1994年 CIA工作員オルドリッジ・エイムズ逮捕)
2000年12月 発覚
2001年1月 アシスタントにエリック・オニール配属
2001年2月18日 現行犯逮捕、2月20日公表(ハンセンからの情報を受け取りに来る人物を2日待った)
2001年7月6日 15件のスパイ行為で有罪、仮釈放なし終身刑

ハンセンが長年に渡りソ連・ロシアに情報を売り渡していたことが発覚するも、その情報では証拠として効力がないため、決定的な証拠を掴むべく、できれば現行犯逮捕を狙い、包囲網を張って泳がせていた2か月程度の間の話で、情報受け渡しの手口などはほぼ描かれない。では心理戦の面で見応えあるかというと微妙。
実録漫画と言うんだろうか、実在事件のチープな漫画化作品を読んだことがあるが、そういうテイストがこの作品にはあると思う。
漫画臭い類型的な味付けされた感ある人物、テンプレ臭、架空の話臭さ、わざとらしさといったものが盛り込まれ過ぎ、厭味が漂ってしまっていてかなり序盤から気分悪かった。

FBIの訓練捜査官の若者エリック・オニール(演ライアン・フィリップ)が、性的倒錯者であることが問題視され内部監査対象のハンセン(演クリス・クーパー)の部下として配属、逐一報告するよう上層部から指令を受ける。
って時点でもう。絶対嘘だなとわかってしまう陳腐な創作が腹立たしい。
性的倒錯て何だよどういうものなんだとか余計なことに気を取られすぎるし、そんな理由で何時に何したか逐一報告し専用ポケベル鳴ったら即刻連絡しなければならない任務に違和感あるし、それで誤魔化せると思う上役もどうかと思うし、丸め込まれる主人公はバカみたいだし、そんなんでやっていけるのかこの仕事?そんな人に任せて大丈夫なのか?とか思うし、軽薄な映画化に思えるし、この司令を受けるまでの主人公の描写も何だか興味を削がれる感じで、こんな設定にしなければもっとテンポよく進行してこれたんじゃないのかと思ったりで一気に萎えた。
観る気失せるような創作入れてどうするんだ。
嫌気がさしてきて集中力が続かず、何度も中断しながら3日ぐらいかけて完走。

決定的な証拠を掴むまでの2か月ぐらいの話だし、色々バッサリいってわかりやすくエンタメに作りたかったんだろうけど、実話ベース感薄れすぎて普通にフィクションになってしまってるような。
最近観た実話ベースが『マン・ハント:ユナボマー』『ゾディアック』『カポーティ』で、実話ベースであることを活かしたクオリティ高めのものが続いていたところにこれだったため、月とスッポン感というか、センスの微妙さが際立って感じられた。

主人公夫婦の描写とか正直邪魔くさい。そんなのに尺取るよりもっと他のエピソードありそうなもんだろう。ないのか。
冒頭で応援してくれていた妻が仕事辞めてほしいとかのあたりは、あーハイハイそういう起伏テンプレもういいよ、よく使い飽きないね。と思った。家族と仕事の板挟み、みたいなのは実際あるだろうし必須項目かもしれない。けど、もうちょっとさらっとできないもんかなー。ハンセン(演クリス・クーパー)を奇矯な人物にキャラ付けしてしまったせいで見せ方に厭味があり過ぎになってたし、この脚本・監督の人の取捨選択するセンスと創作センスが苦手。

とてもフィクション臭くできているので、あーこれも創作だろうなと思っていたものが実際のエピソードで驚いたことがいくつもあった。実話ベースであることをうまく活かせてないと言うほかない気がする。
実話ベースといえど嘘(創作、改変)があることは多分皆わかって観ている。嘘があるのがダメなのではない。上手に騙してほしい。気分良く騙されたい。

監督が脚本書いてるみたいなんだが、そういうのは得てして失敗してる気がするかなー。これおかしくね?こうしたほうがよくね?と言ってくれる人がいたらもうちょっとマシだったろうにと思って確認したら監督脚本だったことが結構ある。独り善がり感が脚本の粗や厭味になりやすいのではないかなー。

クリス・クーパー出演作ゆえ鑑賞。彼が出てなかったら観るとこないぐらい思った。
芝居巧者な彼の演技はこの作品でもさすがではあるが、素晴らしい演技を見せてくれても脚本の時点でよろしくないのでどうにも引っ掛かりがあって、演技を堪能しづらくなってる感あるのが大変残念。
いかに芝居巧者であろうと脚本や演出等がアレだと素晴らしい演技として受け止めづらい、ということがわかってよかったと思うことにする(愛少女ポリアンナ・よかった探し)。

クリス・クーパー主演みたいになってるけど彼主演ではない。主演・主人公はライアン・フィリップのほうで、W主人公という感じでもない。クリス・クーパー主演か!とわくわく購入して観た気持ちの萎れようたるや。自分の事ながら気の毒なぐらいで、ちょっとウケた。

主人公俳優は多分容姿も演技面もこれといった難も厭味もなくて無難なところだとは思う。けど物足りないとかつまらんなーとかは思ってしまうかなー。悪くはないが、観客を引き込む何かが不足してる気がする。脚本がイマイチなことに起因してもいると思うので、彼の力量不足とまでは言えないが。


事実との相違点など

・エリック・オニール(演:ライアン・フィリップ)はロバート・ハンセン(演:クリス・クーパー)のスパイ容疑を知らされた上で配属。
なので、性的倒錯がどうたらで調査対象だとかいうカバーストーリー(辻褄を合わせるための作り話)は創作。うん、気づいてた。

・ハンセンがオニールを教会に連れて行ったことはあるが、それ以外は職場外での交流はなかった。
なので色々創作。どれも違和感あったのでそうだろうなと思ってた。郵便物のくだりも勿論創作。

・実際のハンセンは逮捕時、「何にそんなに長くかかったの?」と言った。
事実は小説より奇なり感ある印象的なこの台詞を使ってないのは、この台詞を吐く人物として構築できなかったからだと思う。で、物凄く創作入れて作ったら、既存の何かをテキトーにつまんできたみたいなありがちなフィクションものみたいな味付けになったのではないか。

不満タラタラなのを包み隠さず出しまくって、かつ胡散臭そうだったら長年疑われずにスパイ活動なんかしてこれなかったんじゃないのかなーと思うし、あの人ならやりかねない、じゃなくて、まさか信じられない、の方向での映画化が観たかった。
割と最近のテッド・バンディ(シリアルキラー)のやつはそこ重視してて新しいと言われてた気がするので、制作年代的にしょうがなかったのかもしれない。古いテンプレにはめ込みましたみたいなのも制作年代的にしょうがないのかなー。旧態依然という感じがする。もしかして『ゾディアック』(これと同年・2007年)以前・以後で実話ベース作品の脚色に変化が見られたりするんだろうか。

エリック・オニール(演:ライアン・フィリップ)が監修で入ってるらしく、監督と彼のコメンタリーがある(レンタル版に入ってるかはわからない)。ゆえに彼主人公・彼視点での話になっているのだろう。彼は近年、回想録を出しているようだが、既に彼視点のこの作品があるため、この事件が違った切り口で映画化されることはまずないだろう。と思うと、この作品が更に苦々しく感じられる。勿体ないなー。
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