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天国は待ってくれるのotomisanのレビュー・感想・評価

天国は待ってくれる(1943年製作の映画)
3.8
 待ってくれるなら、急いで行くことはないわけだ。あるいは空きが出るまで待ってて欲しいなら娑婆に帰るのも手かもしれない。しかし、いつから天国は受入れの困難をかこつ様になったのだろう。あふれた天国難民を地獄が引き取るのは人間にしか思いつけない事だろうか。
 ルビッチ監督といえば、これの前年'42年に「生きるべきか死ぬべきか」を製作している。こちらは、架空の大戦下のポーランドで自称名優ヨーゼフと妻の女優アンナが浮気相手の空軍中尉と図ってナチスのスパイを斃して抵抗組織の名簿を破棄し、ヨーゼフの一座もろとも英国に逃げ出そうという話である。ユダヤ人である監督も'22年以来米国で働き'36年には帰化し親類一党を呼び寄せているように欧州の事に目を背けてはいない。そして、このどっぷり米国な金持ち映画である。
 あの時勢に御覧の通りだが潔い死者ヘンリーが地獄で受け入れられるか?な話である。結論は天国からの推薦があって地獄は無理との事だが、同時に天国も空きがなくて待機しろという。なんだか馬鹿にされたようでもあるが、この戦時下、天国が受け入れるべき人が多すぎて、神もこれほどの事を人が起こしてしまうのかと天国拡充の手を止めて何を思うのだろう。
 争いがなければ難なく引き受けられたはずのヘンリーが待ちぼうけを食らう天国の門を恐らく多くの異様な姿の人々が通過してゆくのだろう。しかしそれをその通り描かない事に監督とその一族を受け容れてくれた米国への遠慮と故国から遠く離された根無し草監督の享受するこの世の天国に対する、我々の想像もつかないような思いが隠れてそうな気がする。
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