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縞模様のパジャマの少年のこのレビュー・感想・評価

縞模様のパジャマの少年(2008年製作の映画)
3.9
20世紀のホロコーストの惨劇を8歳の少年の目線で描いた作品。当時どれだけユダヤ人や共産主義者が見るに堪えない迫害を受けてきたのかを理解できるとともに、独立国家のドイツの排斥的な国家社会主義の異常性を垣間見ることができた。

幼い8歳の少年がその異常性に気づくほどに、当時のドイツ国民の行きすぎた愛国心は暴走し、狂気を孕んでいた。ラルフがユダヤ人を「人間じゃない」と卑下したり、教職者のあまりに偏った思想による啓蒙など大人から子供への洗脳が国家を腐敗させていくのだろう。

無垢な姉のグレーテルが、ヒトラーのポスターを貼るなどして次第にナチスの思想に染められていく過程は現代の世界では考えにくい光景であると思った。しかし自分の身の回り、いや日本という国家においてそういった現状が見にくいだけで、今日もそのような固定観念に縛られた思想の継承は起こりうるのかもしれない。

「もし君が良いユダヤ人に会ったら、それこそ世界一の探検家だ。」という教師のセリフにも、人間個人のアイデンティティではなく、ユダヤ人という肩書きを基準に非人道的な捉え方をしていた。

残虐な父親と真人間たる理性を残してる母親の対比が、好戦と反戦という2つの意思のぶつかり合いにも見えた。コトラー中尉に父親の行方について追及するシーンも愛国心か忠義か、いずれにせよ狂っており当時のドイツ国家の異常性を映し出していた。収容所での生活を美化する動画は心が震えてしまった。

そんな残虐な国家の中で、無垢で無知な少年らが正反対の地位に在りながらも友情を育んでいく。かたや軍人将校の息子、かたやユダヤ人捕虜。決して触れ合うことが許されまいとされる彼らが、金網を挟んで、無知だからこそ1人の人間として人間関係を築いていく。

所々不穏な空気が流れ、国家社会主義によって精神的にも疲弊した各人達の有り様が表現されていた今作は、絶対に後世に語り継がれるべき社会問題を取り上げてくれた。

そして最後の10分は見ていて気が気じゃなかった。母の涙、後悔。しかしそれは何に対するものか。外に連れ出さなければ、強制収容施設の危険性を教えていれば、引っ越してこなければ、反ユダヤ主義の思想を刷り込んでおけば…ということだろうか。

ブルーノにとっての岐路は多くあったが、自分はあまりにも多くのことを包み隠そうとしてしまったからであると思う。しかしそれを知ることができなければ、ブルーノはシュムールと出会うことはなかった。数奇な巡り合わせである。

父は自らが取り仕切る収容施設で愛する子が苦しみの果てに命を落としたと知り、何を思うだろうか。あまりに非情な意見だが、心に根強く存在する反ユダヤ主義から形成された人物像であるため、息子の死をも押し殺してしまうほど冷徹な人間なのではないだろうか。祖母の死からも伺えるように。

「無知」はステレオタイプからの脱却を図ることができると同時に、未知の領域に無防備に飛び込むという危険性をも孕んでおり、それは恐ろしい結果を招きかねない。強烈な印象を与えた最後のシーンで、我々は何を感じとるべきか。反ユダヤ主義の社会背景も踏まえて考える必要がある。
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