かれん

救命艇のかれんのレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
4.0
大戦中、ドイツ軍のUボートの魚雷により沈没してしまったアメリカ船。攻撃したUボートも反撃により撃沈。救命艇には数人のアメリカ人と一人のドイツ人。生き残りをかけて海をさまよう。

目が離せない、心理描写が鮮やかに描かれていました。
公開された1944年は、大戦まっただ中。こんな映画を出せたという事実が、まず凄い。当時、日本はこんな映画出せませんでしたよね。
戦争という国の対立が、数人の人間に置き換わることで全ての意味が変わってしまう。今作では、「だから戦争はいけないんだ」というメッセージにたどり着くのではなく、ドイツ人が不気味な理解できない生き物だという結論で幕を閉じます。ジャケットに写るこの人が救命艇を混乱させたドイツ人なのですが、この写真からも不気味さが伝わってきます。
観ているこっち側としては、ドイツ人というよりも時代そのものが不気味な生き物のように思えて、映画が終わった後にどっと汗がでてしまうような後味の映画でした。
今作では舞台は小さな船、背景もスクリーンの空というシンプルな作りです。その中でいくつかの事件が起き、登場人物たちの関係性が変化していきます。この船で数人の死が描かれているのですが、そのシーンがダイレクトに描かれていないのに鮮烈なのが印象的。人がカーテンのように重なり、彼らの背中をみているだけなのにこちらの想像力をかきたてます。すごいなあ。

「救命艇」という登場人数が限られる作品で、ヒッチコック監督はどうやって登場するのかしら?という興味本位で観た映画ですが、想像以上におもしろく、かっこよかったです。ヒッチコックは「ぷっ」と笑える方法で登場しましたが、なんかサービス精神ある人だな、とその冷静さにしびれます。
かれん

かれん