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救命艇のSPNminacoのレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
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密室心理劇で群像劇の典型。救命艇の先客は優雅に着飾った女性ジャーナリスト、そこへ生存者が次々乗り込んでくる。負傷者、看護者、気の荒いアメリカ男、敵のドイツ人、黒人…属性ごと役割分担されるキャラクター。同じ船でも位置と距離によって映し出されるヒエラルキー。やがて大事な荷物が一つ一つ海へ捨てられるように、それぞれの上辺が剥がされて本質を表していく。
船の残骸が沈み、乗客の持ち物が漂う波からパンして、涼しい顔で煙草をくゆらす女性の姿へ、淡々と情景描写を重ねるオープニングにはさすが無駄がない。出来事を説明するでなく状況だけ見せ、救命艇という限定空間に集中し、展開をダイアローグに委ねる。脚本は小道具やエピソードで情報を小出しに与え、誰を信じれば生き延びられるのか?と疑心暗鬼にさせる。
船と共に揺れる倫理観、一線を越えてサヴァイヴする者たちの罪と罰は、「ミニョネット号事件」からの着想もあるだろうか。母子を弔う横顔の遠近、船頭以外がみな手術を取り囲む場面の後ろ姿など、印象的な構図がモノクロの宗教画風に思えたりも。
ただ、後半の展開は戦時中の体制があからさまに反映されるし、クールだったタルーラ・バンクヘッドがヴァンプ化してやたら思わせぶりにじっくり撮られたり、黒人の扱いも当時のステレオタイプ。極限で表す人間の業というよりも、あくまで戦時下での縮図のようだった。
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