ギリシャの孤島に赴任してきた英語教師が、大きな屋敷で暮らしている自称霊能者の紳士に翻弄されてしまう。ジョン・ファウルズの小説「魔術師」を映像化している、メタフィクション系サスペンス映画。
地元に恋人を残してきた教師が、亡き婚約者の幻影を抱えている紳士と遭遇。たちまち虚実不明瞭なトリップ状態に陥り、現前した婚約者に岡惚れしてしまう。海原を望む開放的なシチュエーションが効果的に使用されている。
屋敷に住む紳士と婚約者が、自身の境遇をコロコロと変えながら、主人公を煙に巻いてくる。信念がありそうに見えて、実はデタラメな思考をもつ主人公が、ただフラフラするだけの内容なのだが、翻ってみると「まさに、夢の中の自分」であることに気づかされる。
良い言い方をすれば、"芸術家の自動筆記法"を駆使している作品。思わせぶりな展開で引っ張ってくるため徒労感に見舞われるが、「人を外見で判断してはいけないけれど、脳みそが判断しちゃうから仕様がないよね」という不条理性を堪能することができる。