ブラウニング監督「魔人ドラキュラ」(1931)と同じ脚本とセットで、別スタッフ&キャストが制作したスペイン語版。英語版74分に対し本作は104分仕上げ。
ブルーレイの特典映像にて鑑賞。色々と興味深く、結果的には英語版の主演ベラ・ルゴシ、監督ブラウニング、撮影カール・フロイントが如何に優れていたかを再認識する機会になった。
本作スペイン版の長所を挙げるなら、30分長尺な分シーンごとの台詞が多くテンポがスローであり、芝居が大袈裟なため子供でも充分に解りやすいことだろうか。カット割りもテレビドラマのように話している人の顔に切り替えていてスタンダードな印象。
しかし個人的にはそれが凡庸に感じられてしまった。英語版の、カットを割らずにドリーをかけながら長回しを続ける映像は緊張感を高め、ルゴシのスローかつ繊細な移動は日本の能を思わせる幽玄さを醸し出している。人知の及ばない存在としてドラキュラを現出させたことが英語版の名作たる所以なのだ。
一方、スペイン版はドラキュラ役はじめキャストから演技から緊張感が伝わってこない。お国柄かもしれないし、スペイン語圏ではこちらの演出の方が受けたのかもしれない。
スペイン版は長らくフィルムが紛失して見つからず、好事家からは幻の傑作として語り継がれてきた。80年代にフィルムが見つかってからも暫くは流通していなかったため、レアものとして過大評価を受けてきたように思う。それがこうしてブルーレイ特典で誰でも鑑賞可能になったのだから、今後は作品の質に見合った真っ当な評価を受けていくことだろう。