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ポゼッションのninjiroのレビュー・感想・評価

ポゼッション(1981年製作の映画)
4.0
肉体の中の悪魔が、当に露見する。

これまで市井の人に潜む悪魔や狂気を、執拗にかつ観念的に描いてきたズラウスキー、今回は思い切って分かり易くやってみましたの回。

とはいえ、(昔の)販売ソフトのパッケージ写真から連想(ミスリード)して、普通のサイコスリラーあたりの映画かな、と思って軽い気持ちで本作を手に取ると、場合によっては救いようのない大火傷を被る事になる。

本作は、カンヌで作品賞にノミネートされただの、主演のイザベル・アジャーニが賞を獲得しただのと言われ、実際に後世の評価として、ズラウスキーの代表作とされている。
確かにズラウスキーの他の作品と較べて、出演者には国際的認知度の高いビッグネームがあり、世評もそれなりに高いとあれば、普通ならあのズラウスキー先生も遂に我々と同じ地表に目線を落として、理解も共感もある、所謂一般にウケのある映画をお撮りになったかと思いきやだ。

本作は、これまで同監督の撮った数々の変態作品と較べても、救いようのない程に扱う題材が生々し過ぎる、というか、本作の背景を現代劇にする事によって、観客としてはこれまで時代背景や異世界の所為にしてスルー出来たことが全く看過できず、しかもミニマムな人間関係についてのある意味赤裸々過ぎる感情の発露が背景に常に付いて回る、まあはっきり言えば全てに於いてゲス過ぎることもあって、本作は実はある意味で、我が国においてソフト化が断続的に見送られている同監督の問題作「悪魔」や「シルバー・グローブ」よりも更に危険なパンドラの匣である。

登場人物総出でのたうち回っての大騒ぎは、この監督の作風として実は至って平常時の運行であり、イザベル・アジャーニの件の狂った熱演は、とある一点を除いて、何ら驚くべき処ではない。

注目すべきは新しい要素として、今回は演出面でホラー映画というジャンルの要素に堂々とアプローチしているという一点である。

本作に於いてズラウスキーは、理解できない狂気の発露、悪魔の具現を、肉体や具体のクリーチャーを使って、分かり易く落とし所をつけるという譲歩を行っている。
そしてその目論見は、両者の親和性の高さにより今日の評価と成功を見る。
これで日和っただのと言われると、余りにズラウスキーが不憫ではある。
そもそもこれまで、全く理解の外にあるような狂った作品や観念を、驚くべき精力で何とか我々の元に届けようとした男である。

我々がそれを届けて欲しいと求めているかどうかの議論は、この際無粋である。
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