トシオ88

ポゼッションのトシオ88のレビュー・感想・評価

ポゼッション(1981年製作の映画)
4.2
4K修復版にて初鑑賞。映像に傷もなく、音声も綺麗なポゼッションを初めて観たけど狂気の世界は、初めてテレビ放送で観て脳に焼きついた時のまま、全く変わっていなかった💥

1980年当時、まだベルリンの壁が存在し東西陣営に分かれていた世界は今よりもっとシンプルだった。その東西対立の最前線だった西ベルリンを舞台に、イザベル・アジャーニとサム・ニールの狂ったドラマ。そして途中から登場する血と粘液まみれのあれ…。

キリコの絵のように西ベルリンには人影もなく、石造の重厚な建造物が重く立ち並ぶ。そんな暗い街でのイザベル・アジャーニの演技が、やはり凄まじい。観るものを冒頭から不安にさせる登場シーンから、子供をめぐるサム・ニールとの諍い、そして秘密の逢瀬に使うマンションに潜むあれの為に狂気の焔に焼かれて壊れていくさま…。やはり演技の白眉は地下鉄駅構内での得体の知れない液体にまみれて、のたうち絶叫するシーンだと思うけど、今回、恐らくテレビ放映等ではカットされたであろう教会での立ったままの自慰シーンを観て更に慄然とした。こんな演技ができる彼女も凄いが、監督の作品に対する確固たる信念、パワーは更に凄い。若かりし恐竜博士サム・ニールも演技では奮闘するが、アジャーニの前では些か分が悪い。

そしてイザベル・アジャーニは悪女の鑑のようなサム・ニールの妻役と、清純で天使のような幼稚園先生役の2役を見事に演じ分ける。当時まだ20代の彼女の演技力に呆然としてしまうけど、やはりその唯一無二の美貌は悪と善、その両方でも輝きを失わない。

ラスト、重い空襲警報と爆音の轟音の中で立ち尽くすアジャーニとその後ろで蠢くサムニールみたいな男のシルエット…恐らく迫り来るファシズムと戦争を意識したポーランド出身のズラウスキ監督らしい演出だけど、40年以上も経ってヨーロッパの歯車が結局今も変わっていないのが悲しい。
監督、出演者がパワーのありったけを炸裂させる本作。商業ビジネスが主流の現在の映画界では2度と現れない奇跡の作品🥲🤔🎬
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