Maki

ナチス・ホロコーストの戦慄のMakiのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

実際に強制収容所に送られたリトアニア人大学教授が戦後に書き起こした手記を元に作られた映画です。
強制収容所とはいってもリトアニア人やポーランド人が多く、ビルケナウなどの絶滅収容所のイメージとは少し違ったものでした。ガス室もありません。とりあえず働かされる、暴力を振るわれる、悪いことをすれば絞首刑になる。ある程度の融通なら効きますし、収容者と看守が口喧嘩をするシーンもありますが、特にお咎めなし。いわゆる絶滅収容所でない普通の(というと言葉選びが悪いですね。申し訳ないです)収容所での生活を描いています。収容者の中にも細かなヒエラルキーが存在しており、収容者が収容者を管理したり、暴力を振るったりします。逆にドイツ人はほとんど手を下していないというのが印象的でした。
もうひとつ印象に残ったのは、それぞれの登場人物(軍人も収容者も)が戦前何をしていたのか、どんな人だったのか、一人一人にナレーションが入ること。例えばドイツ人将校は元会計士など、収容者はボクシング選手、ハープ奏者、教授など...。どこにでもいるような当たり前の人間が、収容所のおかしなルールにがんじがらめにされて、その結果人に暴力を振るったり、死体を見ることに慣れていってしまう。人が人を殺めることに何の疑問も持たなくなってしまう。ハンナアーレントの言葉を借りるとするなら、「思考の停止」でしょうか。とても恐ろしい事だと思いました。
この映画を見て新たに知ったことなどは特にありませんでしたが、収容所での生活を描いた漫画『マウス』と比較的内容が似ているように思いました。この映画かマウスどちらかを読めば、収容所のある程度のことが分かると思います。

主人公のリトアニア人大学教授のセリフを載せておきます。
「収容所に道徳心や良心なんてものは存在しない。常識は一切通用しない。すべてを捨てなきゃ始まらない。常識を捨て、本能に従うしかない。飢えやそして寒さ、身体的痛みと、自衛心。重要なのは適応することだ。ただひたすら適応あるのみ。動物になる。それを理解できないものは生き延びられない。焼却炉で焼かれ、灰になるのがオチだ。たとえ人間を殺しても構わない。それに対して一切の咎めはないんだ。疑問に思う必要もない。快楽のために殺してもいい。...これだけは言っておく。いつしか死の恐怖は消える。寒さの恐怖や痛みの恐怖は続くが、死への恐怖はない。こう考えていたんだよ、今日だろうが明日だろうがどうせみんな死ぬんだって。でも無意識のうちに喜んでいた。今日じゃなかったことに。それが現実だ。」
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