むっしゅたいやき

鏡の中の女のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

鏡の中の女(1975年製作の映画)
3.8
自己内面への眼差し。
イングマール・ベルイマン。
一人の女性の病状変遷の描写を通し、其の心因─根源的な死の恐怖や孤独、憎悪、責務と抑制、過去のトラウマ─と、どう向き合い、折り合いを付けて行くべきなのかを描いた佳作である。

本作は主人公、精神科医師イェニーの抑鬱状態からの心因受容と回復を描いた作品であり、フィンクの危機モデルで言う防御的退行~受容までのプロセスをなぞる物である。

ベルイマンの精神物、と云うと先ず過去作『仮面/ペルソナ』や『恥』が念頭に浮かぶ。
これ等はどちらかと言えば、病状を客観的に描写し、悲劇的結末を予感させる作品群となるが、本作は主人公の内面に在る心因に焦点を絞り、彼女が今まで目を逸らし続けていた其れ等をどう凝視し、どう受け入れて行くか、何を以て克服して行くのかのプロセスを描いている点が大きく異なっている。

観念的な「死」その物であろう黒目の老婆や、亡くなった両親との和解を経て再起し、ラストでは祖父母が醸すもの悲しくも親密な雰囲気の原因を悟った彼女の声は、力強くも美しかった。
ベルイマンの作品群に在って比較的地味な作品ではあるが、何とも言えない温かみを感じる佳品である。
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