ぬ

仁義の墓場のぬのレビュー・感想・評価

仁義の墓場(1975年製作の映画)
4.0
※言わずもがななのかもしれないけど、性暴力シーンあり。性暴力を賛美している描き方ではないと思うし、この時代の女性の扱いを知るという意味では貴重な記録なのではと思う。
(が、女性がストックホルム症候群的な行動を取る部分があるので納得さいかんが…)

ペイ中(ヘロイン中毒)の田中邦衛、顔色悪すぎる…本当に、ダメ絶対…
田中邦衛、『県警対組織暴力』の役といい、いい演技するなぁ。
今作なんて、ほとんど言葉にならないような言葉しか発しない末期の薬中の役なんだが、存在感がすごい。

『仁義の墓場』、文字通り石川力夫を象徴するものでもあるし、戦争という人の持つ仁義を踏みにじるような非人道的な出来事が大きな傷となり、石川のような自暴自棄な人間が増えたりして、仁義が墓場へ追いやられたという意味もあるのかな。

まず、映画の舞台となっている時代がまさに混沌具合がすごい。戦時中の日本による抑圧から解放された韓国中国台湾のヤクザが出てきたり、おまけにアメリカ憲兵まで出てくるという…
こういう状況が庶民の暮らしの身近であった時代が存在していたということに、まず驚き。
最初の方でチンピラみたいなのが、女の人に向かって「俺なんて明日突然死んだっておかしくねぇ特攻隊なんだから、いい思いさせてくれや」みたいなこと(かなり意訳)を言うんだが、ホントにそうだったんだろうな、と思う。
死があまりに身近で、刹那に生きている。

そして主人公の石川力夫、実在している。
行いすべて裏目に出るような疫病神のような厄介さだし、意味わからん生命力。
石川力夫を英雄的に描くわけでもなく、かといって面白おかしく狂人として描くでもなく、ひとりの人間を淡々と描いている感じが深作欣二。
シャブを打ちながら風船を見て微笑むシーンでは、どこか石川力夫の純粋さというか、無邪気さが感じられる。
石川力夫は、仁義なき傍若無人な振る舞いばかりで恐るべき人間だが、実際は無邪気で純粋ゆえに時代や戦争や社会に翻弄され流され続け、信じて着いて行くべき人や方向性も定められず、悪に手を染めては現実から逃れるために女や薬に手を出し、取り返しがつかなくなってしまった、とても弱い人間だったのかもしれない。
今ならば適切なケアを受けるべきだと思われる、そんな人が戦後はたくさんいたのだと思う。
(ベトナム戦争から帰ったアメリカ兵は、PTSDから手のつけようのないヒステリーな行動を見せたというのを、どこかで観た。石川力夫の支離滅裂な行動はそれを思い出させるようだった。)

『仁義なき戦い』でも感じたけど、やはり深作欣二の作品には反戦のメッセージがベースにあると思う。
相変わらずの暴れるようなカメラワークも迫力あってよかった。
ぬ