benno

イカリエ-XB1のbennoのレビュー・感想・評価

イカリエ-XB1(1963年製作の映画)
4.3
クールなジャケ写が目を引きます✧︎*。

「地球が消えた」…「地球が見えない」…と絶叫する男性のオープニングシーン…ファスビンダーの『第三世代』を思わせる不穏な電子音…引きつけられます。


2163年…宇宙船イカリエ-XB1が世界初の生命探査の為アルファ・ケンタウリ星系へ…地球への帰還まではおよそ15年、乗組員の体感では2年の旅です…。

地球との時間の流れが違う為、帰還後には地球で待っている家族が年上になってしまうという設定もSFっぽく面白い…。

そしてその航海の途中、謎の難破船に遭遇…小型機でその難破船へと乗り込むと…そこには人間の死体が…さらに船に積まれた核兵器が爆発…。

この難破船はつまりは20世紀の負の遺産…アウシュビッツや広島を例に挙げ20世紀の愚かな人間たちを揶揄します…。

そして旅を続けるイカリエでしたが…ダーク・スター(暗黒星)から放たれる未知の放射線に曝され乗組員たちは謎の睡魔に襲われます…。

彼らは無事、目的の惑星に到達出来るのか…??


1968年にはキューブリックの『2001年宇宙の旅』、その2年前にはTVドラマシリーズ『スター・トレック』…それ以前の1963年に共産主義下のチェコで制作されたことにビックリ!! SF映画に大きな影響を確実に与えていると思われます…。

舞台となる船内にはスポーツジムが設けられていたり、グランドピアノもあったり…乗組員たちは様々な余暇を過ごします。決して未来的でメカニックな世界ではありませんが、細部の幾何学的なデザインは古さを全く感じません。衣装は同じくチェコの作品『ひなぎく』を担当したエステル・クルンバボバー、スタイリッシュでセンスも素晴らしい…。

ガジェットもアップルウォッチ的なバイタルモニターや無重力空間を歩ける磁気ブーツはまるでNIKEのアダプトシリーズのスニーカー…ソールが光ります…今から60年前の作品で…驚きです。キューブリックの『2001年宇宙の旅』に類似するところもありますが、ただしこちらが先駆…。

また、地球にいる家族との交信で、ひとりの乗組員は妻の愛情に不信感を抱きますが、これは同じ原作者スタニスワフ・レムの作品であるタルコフスキー の『惑星ソラリス』においても、破綻した夫婦間の関係が描かれています…SFでありながらドラマとしてはとても現代的…。

また船内ではダンスパーティも開かれ、そこで踊るダンスがなかなかに奇妙…それでいてとても新鮮で魅力的です…。

この作品には主人公と言えるような人物は存在せず、個々の登場人物の役割がイマイチはっきりしません…これも、穿った見方をすれば共産主義的?!

20世紀の愚かな人間の行いを嘆き…これからの未来に願いをこめたような素敵なエンディングです…。


thanks to; みんとしゃま 🪐࿐✩.˚
benno

benno