鋼鉄隊長

イカリエ-XB1の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

イカリエ-XB1(1963年製作の映画)
4.5
シネ・ヌーヴォにて鑑賞。

【あらすじ】
2163年、人類は宇宙船イカリエ-XB1に乗り込み地球外生命体を探す旅に出ていた。目的地はアルファ・ケンタウリ系星雲。その途中、船は「何か」に遭遇する…。

 共産圏の映画はぶっ飛んでいた。ハリウッドの手法とは異なる独特な撮影スタイルが、奇妙な魅力を引き出しているからだ。その特徴を言い表すのは難しいが、「言葉に頼らない映像」が最大の美点だと思う。台詞は少ないにもかかわらず、美しく配置されたショットの構図や映像のテンポが物語を雄弁に語っている。鉄のカーテンに残された映画たちは、「動く絵画」と呼ぶのが相応しい。
 この作品も実に美しい。特筆すべきは船内の構造だ。幾何学模様が配置された指令室や、左右の壁に電飾が一直線に通る長い廊下。60年代だからこその古臭さと、それでいて今なお色あせない未来感が絶妙に合わさったレトロフューチャーな作りには惚れ惚れする。そしてその舞台に流れる音楽がまた素晴らしい。宇宙船をイメージした電子音楽のリズムは、観客の心を揺さぶる。この音楽に、水槽の泡の音や非常警報などの様々な環境音が重なり合う。本来ならば騒音になるような騒がしい音だが、ノイズを含めて1つの曲となっている。つらつらと書いてはみたが、この素晴らしさは観るのが一番。YouTubeに冒頭のシーンがあったので、未見の人はそれだけでも観てもらいたい。
https://www.youtube.com/watch?v=AhPDXYiyGL8
 ご覧になりましたか? ね、スゴイでしょ⁈ これだけで傑作であることがわかるはずだ。しかも冒頭にクレジットが流れている。つまり長々とエンドロールを観る必要がない。これが作品の魅力にもなっている。なぜならこの物語は目的地に到着して幕を下ろす。結局話がハッピーエンドなのか、それともバッドエンドなのかは明言されないまま終わってしまうのだ。しかし作品はしっかりと完結している。映画が終わると同時に否応なしに現実へ放り出される感覚は、たまらなく興奮した。けっして消化不良だからだということでは無い。視覚的快楽から抜け出せなくなったからだ。ぶつ切りにならない絶妙な塩梅に仕上がったラストには、思わず声が出そうになった。若干ネタバレではあるが変な期待をしないように言っておくと、この映画には「宇宙人」は姿を見せない。だからこそこの終わり方は想像力を掻き立てられる。寡黙な共産SFは最後に真価を発揮している。名画の解釈はどうぞご自由に。ちなみに僕はバッドエンドだと思った。
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