晴れない空の降らない雨

メロディー・タイムの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

メロディー・タイム(1948年製作の映画)
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 ディズニーの長編第10作、オムニバス・シリーズの5作目。
 やはり、全体として背景に目が行く。この時期にしか見られない独特の画風・色彩であり、ディズニーの歴史でもマイナーなこの時代が、コアなファンからは「コンセプトアートの黄金期」とよばれる所以である。時代に恵まれなかったために、こうして映画になったのはごく一部に過ぎず、優れたアーティストたちの実現しなかったアイデアがたくさん存在する。もし、彼らがソ連にいたならば、事情は違っていたかもしれない。共産圏には、市場のことを考えずに前衛的なアニメーションをつくれる環境があった。
 
 『メイク・マイン・ミュージック』同様、短~中編のミュージカルから成る。本作はアート志向で堅苦しかった『メイク~』よりも洗練されており、ストーリーもあってずっと親しみやすい。音楽もジャズやラテン系の軽快なものが中心だ。また、3本目「リンゴ作りのジョニー」はナレーションとセリフで物語る普通の中編作品だ。
 各話冒頭の前口上は、舞台の「本日の演目」風に絵筆がスタッフや歌手・演奏家の名前を描くアニメーションで、都会的・モダンな雰囲気。
 全体を統括したのは、戦前の5作でも監督やプロデューサーとして大活躍したベン・シャープスティーン。作監にはナイン・オールドメンの面子がズラリと並ぶ。
 
 1本目「冬の出来事」は、優雅にアイススケートをする2組のカップル(人間とウサギ)を描く。最初は良い雰囲気で氷にハートを描くなどするが、男の子がかっこつけようとしたのが原因で仲違い。その後、ピンチに陥った女性勢を動物たちの協力で助けてめでたし。メアリー・ブレアのシンプルタッチが存分に活きており、キャラが怒ると背景ともども赤一色になったり、落ち込むと青一色になったり、自由度が高くて面白い。音楽も映像にマッチしている。
 
 2本目「クマンバチのブギ」は、襲いかかるピアノの鍵盤たちからクマンバチが逃げ惑う。《Flight of the Bumblebee》をアレンジしたスピーディなブギヴギに、『ダンボ』を思わせるサイケデリックな映像が畳みかけてくる。あっという間の小品。もともとは『虫のバレエ』という作品に使われる予定だった。
 
 3本目「リンゴ作りのジョニー」は上述のとおりで、挿入歌は3曲使われているものの、ミュージカルではない。開拓時代の伝説の人物、ジョニー・アップルシードのお話。
 
 4本目「小さな引き船」は、引き船を可愛らしく擬人化した典型的なディズニー作品。ここでも歌でストーリーを物語るので、単に音楽と映像を合わせたものよりも、ずっと親しみやすくなっている。
 
 5本目「丘の上の1本の木」は、最もアーティスティックでリリシズム溢れる作品。様式化された樹木のフォルムはのちのアイヴィンド・アールを思わせる。雨上がりの蜘蛛の巣の燦めきや、突風に舞い上がる木の葉など、ディズニーお得意の自然美の演出に見とれる。
 
 6本目「サンバは楽し」には、ホセ・キャリオカがドナルド・ダックとともに再登場。またしても実写の背景と合成して歌って踊る。相変わらず何でもありのドラッグムービー。
 
 7本目「青い月影」もアメリカの民話を基にした作品で、ウォード・キンボールの勢いあるアニメーションが存分に楽しめる。