暮色涼風

ソビブル、1943年10月14日午後4時の暮色涼風のレビュー・感想・評価

4.5
観る側の主体性、想像力、忍耐が必要不可欠な映画『SHOAH ショア』に続くドキュメンタリー。

この作品もまた前作と同じ形式で撮られたが、今作ではソビブル収容所におけるユダヤ人の武装蜂起に焦点を当て、ユダヤ人が暴力によって権力の奪回を行った典型的な例として、前作とは分けて扱いたいというランズマンの意向があり、単独の作品として完成させられた。
この映画によって、「ユダヤ人は疑念も抵抗も無しにおとなしく迫害された」という間違った伝説を否定している。

このタイトルが示す「ソビブル」という場所と「10月14日16時」という時間は、ナチスの絶滅収容所で唯一成功した蜂起の瞬間を表している。
この時間きっかりに計画は実行される。
それは、ドイツ人の時間に正確な几帳面さが無くては成功はあり得なかったというもの。

17ヶ月という短期間に20〜50万人のユダヤ人が殺害された、ソビブル収容所。
そこからの脱出を成功させ"生"を勝ち取ったユダヤ人400人の内のひとり、イェフダ・レルネルの貴重な話が聞ける。
彼は、その30年以上も前の出来事を、昨日のことのように興奮して、時間の詳細まで鮮明に語る。
それほど、記憶に刻まれるべきことが、今後の人生にどれほどあるだろう。

数百人のウクライナ兵の監視がある中、16人のドイツ兵を相手に計画した蜂起。
「おとなしく焼却炉で殺されるより、戦って殺される方がマシだ」
と、それまでもその後も人を殺したことがない人々でさえ、ドイツ兵を殺すことが正しいと確信するには十分な経験を語ってくれたイェフダ。
「ドイツ人の、生きている人間の頭蓋骨を、カミソリのように研いだ斧でかち割ったんだ」という大昔の一瞬の出来事を、生き生きと話しながらも、それを思い出すと込み上げてくる喜びと悲しみの共存する感情には、想像を絶するものがある。
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