ラウぺ

ソビブル、1943年10月14日午後4時のラウぺのレビュー・感想・評価

4.0
ユダヤ人の絶滅収容所のうち、唯一組織的な脱走が実行されたソビボルでの事件の生存者にインタビューしたドキュメンタリー。

クロード・ランズマン監督は本作の前に、同じくホロコーストを扱った延べ576分という大作「SHOAH ショア」がありますが、本作は「SHOAHショア」にも登場するイェフダ・レルネルにソビボルでの蜂起についてインタビューしたもの。
(本作では題名も字幕も「ソビブル」となっていますが、実際の発音は「ソビボル」の方が近いと思いますし、今では「ソビブル」という表記はネットや書籍でも殆どみられなくなりました。)

「SHOAH ショア」と同じく、インタビューと撮影当時の2000年頃の現地の映像を繋いだドキュメンタリーで、インタビューはヘブライ語の話をフランス語の通訳から聞く、というスタイル。
話をする時間が倍になるので、翻訳を待つ時間が少々もどかしい点も同じですが、次々と話が進まない代わりに、内容を吟味する時間と、話し手が合い間に見せる表情の微妙な機微を見ることができます。

ソビボルの脱走は赤軍捕虜のユダヤ人であるアレクサンドル・ペテルスキー(通称サーシャ)が主導したもので、イェフダ・レルネルを通してその様子を聞くことになるので、実際の脱走に至るプロセスが証言で全て分るというわけではありませんが、実際にその場に居合わせた人物の話は迫真性があり、何より当時の心理がどうだったかという心の動きも知ることができるのは大きなメリットといえるでしょう。

脱走後の収容者たちにはかなり過酷な運命が待ち受けていたはずですが、インタビューは脱出したところまでで、終了。
これはこのエポックな出来事を当事者が語る、というインタビューの主題として、その後の話はまた別、との監督の判断ということのようです。
確かに、その後彼がどう生き延びたのか、また他の脱走者がどうなったのかは大変興味深いことですが、それに考えを巡らす余韻もまた悪くない、と思います。

その代わり、映画はソビボルに移送されて「処理」された人々の時期と場所を羅列した夥しい数のリストを読み上げて、締め括られます。
ベウゼツ、トレブリンカと並んで三大絶滅収容所のひとつとされるソビボルですが、この数字を見ただけでも、国家事業として一つの民族を消し去ろうという稀に見る蛮行がどれほどの規模だったのか、その一端を思い知ることになるのです。
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