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ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれないのamuのレビュー・感想・評価

3.0
先日観たばかりの「渋谷」と同じ2009年のお話。親と喧嘩して家出した女の子もいれば、家を出ずにパラサイト化する男の子もいて、闇と病みで溢れたこの時代。社会人で、年齢的にはすっかり大人になると時間の経過はとても早くて、2009年の時自分が何をしていてどんなことがあったかをついこの間のことのように思い出せるけど、9年という月日は間違いなく世の中も自分も変わっていて、十年一昔と言われるように、映像からも一昔前である古さをひしひしと感じた。

私が勤めていた会社も、世間からすればブラック企業であった。定時退社は都市伝説だし、残業代はつかない、徹夜作業当たり前、能力の無い者の仕事量は少なく遊んでいてもお給料を貰い、真面目な者ほど仕事量も拘束時間も増えたが給料はともすれば遊んでいる者より少なかった。

作中と酷似した職種の私は、業界のブラックさをこの職種では当然のことと認識していたので、逆にブラックだとも思わなかった。無茶な納期のためにパソコンにカンヅメだったし、食べる時間も寝る時間も無かった。(粒ガム大量に食べたり、デスクまわりがドリンクの空ビンで埋め尽くすところなど一緒過ぎて苦笑した。)ましてや田辺誠一のような先輩など存在もしていなかった。けれど私が頑張れたのは、その仕事が好きだからだった。そして、人に理解されづらいこの職種のことを理解も応援もしてくれた家族がいたからこそ続けてこれた。アイデアやイメージを形にする作業は一日で終わらせても、三日かけても、対価は出来上がったものにのみ支払われるので、何時間その仕事に掛けたかは関係ない。つまり、残業代など出るわけがない。そういう業界だから仕方がない、と私を含め同業の方は諦めというよりは、常識として認識していたと思う。

ところが世の中が急にブラック企業ブラック企業と騒ぎはじめた。何年前だったか、電〇の社員が…というニュースがあったが、その後電〇は残業無しになったようだけど、実際に作業をしているのはその大手企業の下に無数に広がる下請け会社だ。クライアントとの間に立つ電〇の担当者が早々に定時退社するためには、それまでに納品が必要になり、それだけ納期が早まり、実作業をする者たちがどのような苦境で時間と戦っていることか…。ただ、これらはニュースにも取り上げられない。ここでレビューを書いているほどに今は元気であるが、何度も倒れ、入院経験もある私としては、正直その水面下で頑張っている人達の身体が心配になったニュースであった。

定時退社が都市伝説なのは、定時になど帰っていたら世の中回らない部分があるからだ。発売日に発売されない雑誌、公開日に公開されない作品が存在してしまう。それなのにプレミアムフライデーだの、働き方改革だの、ちゃんちゃらおかしいことだらけだ。言いたいのは、何でもかんでも闇雲にブラック企業だ!と騒ぐなということだ。万人に理解されない特殊な業界が世の中には存在していて、そうやって世の中回っている。残業代があてがわれるとしたら、企業は膨大な額のギャランティを要するし、それが無理な以上、何で働いたことへの対価を表すのかということ、せめてもの敬意を表する気持ちは持って欲しいと思う。本当のブラックさは、人と人とのやり取りである仕事において、相手を敬うことをしない人間であって、企業ではない。

田辺誠一がいたからがんばれたという気持ち。つまりそういうことよなーと納得したけど、あの品川の下手すぎる演技と、プレミアムフライデーを考え執行したやつにばーか!と、こちらが言いたくなった(笑)でもあんな風にばかばか!と騒いでくれるわかりやすいばかがいてくれる方がまだマシな気がする。本当の敵は、いつもいい顔だけをして隣の席にいたりするものだから。