こたつむり

ブラジルから来た少年のこたつむりのレビュー・感想・評価

ブラジルから来た少年(1978年製作の映画)
3.5
★ 罪は遺伝するのか?
  あの少年をあなたは許せるか?

あくまでも一個人的な考えとして。
製作者の意図を汲むだけが映画の楽しみだとは思いません。反戦映画を“戦争を賛美するためのプロパガンダ”に用いるのは避けるべきですが「この映画は戦争を賛美しているのかも」と受け止めるのは自由じゃないでしょうか。

つまり、百人いれば百通りの楽しみ方がある。
それを許容することが“真の多様性”であり、映画を末永く楽しめることに繋がると思うのです。

さて、それを踏まえて本作ですが。
主眼はサスペンス。ナチスの残党に下った「60歳代の男性を94人殺せ」という指令の謎を解していくように描かれた物語でした。

だから、謎解きを楽しむのが王道。
…なのですが、正直なところ、知識があれば物語中盤で全貌は見えてしまいます。ゆえに答えを知ってしまったサスペンスは面白くない…なんて考えても仕方ない話でしょう。

また、配役が微妙でした。
グレゴリー・ペックを主人公にしてしまったために、出演が少ない前半が散逸した雰囲気になってしまったのです。“謎を追う側”を主人公にすれば、退屈な感覚を避けることが出来たと思いました。

しかし、本作の真骨頂はその先。
真実にまとわりつくような“狂気”が面白いのです。これは製作者の意図ではないかもしれません。でも、面白いものは面白いわけで。オカルトと科学の真ん中を貫く“狂気”には独特の魅力があるのです。

しかも、70年代の映画ですからね。
表現が攻めているのですよ。不謹慎を承知で書くのならば、ロウソクの匂いが立ち込める理科室の感覚。ビーカーとフラスコとプレートと…なんて禁忌の科学実験を思い起こす楽しさに満ちているのです。

そして、見事だったのは《子役》の選択。
彼を起用した時点で…本作は既に完成していたのかも。

まあ、そんなわけで。
現代の視点で捉えるとB級映画ですが、各国を股に掛けた豪華なロケから考えるに当時は違ったのかもしれません。なかなか味わい深い物語なので、期待値を下げてから臨むことをオススメします。
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