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ケルジェネツの戦いのbackpackerのレビュー・感想・評価

ケルジェネツの戦い(1971年製作の映画)
3.0
アニメーションの神様ユーリ・ノルシュテインが、ソ連におけるアニメの創始者イワン・イワノフ=ワノーと共同監督した、1971年製作の監督第2作。
帝政ロシア時代の大作曲家ニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフが晩年に作曲した全4幕のオペラ『見えざる街キーテジと聖女フェヴローニヤの物語』の中の、同名間奏曲『ケルジェネツの戦い』をイメージソースとし、その戦いをロシア聖像画(イコン)のフレスコ画タッチな手法を用いてアニメーション化したものです。

1972年の、第5回全ソ連映画祭の最優秀賞、第1回ザグレブ国際映画祭の最優秀賞、特別審査員賞、1973年のニューヨーク国際映画祭の最優秀賞および高度な技術品質に対する特別審査員賞、を受賞しております。

舞台は西暦989年、キエフ大公国ケルジェネツ河沿いの街(おそらくキーテジの街)。襲来したタタール人と戦うため、街の戦士達は家族に別れを告げ、ケルジェネツ河のほとりに赴きます。
タタール人との戦いは苛烈を極め、兵は次々と斃され、討死し、最後には一面に死体が残るばかりとなる……というお話です。
音楽の素晴らしさは言わずもがなですが、曲にピッタリとマッチした劇的なアニメもお見事としか言いようがありません。
家族と別れ進軍していく兵士達と、それを見送る女子供たちから漂う悲壮感。
濁流のように押し寄せ、激しくオーバーラップする戦いの勢い。
後には死だけが残る虚しさ。
急展開での明るい雰囲気にはあっけにとられましたが、反戦映画としてのインパクトは十分すぎるものがあります。

本作は、パペットを使ったアニメーションを当初ワノ−が提案したところ、フレスコ画の切り絵を用いる手法をノルシュテインが主張したようで、パペット版ならこんなに短く収まらなかったんじゃなかろうか……と想像してしまいます。
フレスコ画風の切り絵アニメという、他に見たことのない独特な世界の魅力が素晴らしいですので、個人的にはノルシュテイン案が通って正解だったんじゃないかな、とも思います。
そんな本作は、セルゲイ・エイゼンシュテイン(『戦艦ポチョムキン』『イワン雷帝』他)を尊敬していたというノルシュテインが、エイゼンシュテインのモンタージュ理論を研究し、その結果を実現した作品と言われています。

僅か10分に詰め込まれた芸術的で幻想的な、熱量のある反戦映画でした。
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