emily

熟れた本能のemilyのレビュー・感想・評価

熟れた本能(2009年製作の映画)
3.3
医師の夫と子供二人に恵まれ何の不自由もなく暮らしている40過ぎのスザンヌ。このたび理学療法士の仕事を再開することになり、仕事場の工事のために雇われたイバンと出会い、激しく恋に落ち、周りが何も見えなくなっていくが・・

 結末を冒頭に見せ、半年前にさかのぼる。車での事故に責任を感じる事でイバンと二人きになるスザンヌ、前科のあるイバンは主婦のスザンヌにはどこかワイルドで魅力的に映ってしまい、良きタイミングが重なり二人は自然な流れで恋に落ちてしまう。スザンヌを演じるクリスティン・スコット・トーマスがイバンを演じるセルジ・ロペスの前でだけ見せる、可憐な少女のような表情や仕草が魅力的である。官能的で情熱に身を任せた、時間も二人の間の隙間までも埋め尽くしたい一心で抱き合い、体を重ねる破壊的なシーンの瞬間の幸せと落胆の繰り返し。二人の愛にのしかかるスザンヌの夫の執拗な圧力。それに巻き込まれてしまい、蚊帳の外に追いやられる二人の子供たち。

 3人の大人たちが自分の欲望に忠実なまでに行動し、滑稽に崩壊へ一歩一歩道を進めていく。幸せを感じれば感じるほど、その影で真逆の感情を持つ人がいる。その重みを感じる責任がある親という立場でありながら、全くそれが見えないほどに人を愛してしまう罪。夫の執拗な行動はさらに二人の愛を盛りあげてしまうという皮肉。困難な状況は二人の愛をさらに深めてしまう悪循環の三角関係が見事に平行線で描かれ、激しい官能的なシーンと共に、最後まで細い糸を紡ぎあげ、希望をもったままラストを迎える悪質さもいい。

 ただ愛されたい。ただ深く欲望に溺れたい。熟れても欲望が果てる事はない。それを満たしてくれた男は彼女を女にする。激しいまでに体の火照りに忠実に、クリスティン・スコット・トーマスのぬけがらのような表情と、目の奥から輝きを放つ女に切り替わった瞬間のギャップが見事だ。
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