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もののけ姫のKKMXのレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
4.6
 噂に違わずスゲー作品でした。スゴガーエー。80〜90年代のハヤオの打率ハンパないですね、世界中の全映画史の中でもこの時期のハヤオは最強監督なのでは?

 本作は自然と人間の衝突、怒りの連鎖、運命との向かい合い方等々、テーマがてんこ盛りで強烈でした。


 本作は明確な正義は語られておりません。自然サイド、つまりもものけ姫ことサンや山犬、猪たちは彼らの正義があり、エボシ御前らタタラの村に住む人々にも正義があります。互いに自分たちの生活を守るために戦う側面があり、外に対しては容赦なくても、内に対しては慈悲深かったりします。
 特にエボシ御前のキャラクターはなかなか魅力的で、女性を信頼して地位向上させたり、ハンセン病患者の尊厳を大切にする一方、自然破壊は無頓着で当然みたいな感覚を持っています。
 正直、人間は農耕を始めたころから自然を侵食しながら生きる宿命を負っています。じゃあ自然サイドは蹂躙されっぱなしなのか、というとそうでもない。自然災害という形で人間にカウンターを食らわせたりしております。昨今のコロナなどもそうでしょう。

 結局は落とし所を見つけて共存するしかないのですが、怒りは怒りを来すので、憎しみが重なりもはや落とし所はないという現実が厳しい。その憎しみは醸造されてタタリとなり、関係ないアシタカに呪いがかかるという展開はムムムと考えさせられました。なんか紛争地で難民がたくさん生まれてしまい、憎しみの呪いを受けた難民がタタリを運んでしまわざるを得ず(本来タタリとは関係ない猪がタタリ神になってしまったのと同じで、難民も猪も当然悲劇である)、テロとかが起きて本来関係ない人たちがタタリに合うという構図と同じだと思います。
 そのような紛争地に現れるのは、決まって搾取を試みる勢力です。ジコ坊ら師匠連やアサノ公方の侍たちですね。こいつらが最も俗悪であります。新自由主義的な印象ですね、富だけを吸い取ろうとするところは。

 そんな現実の世界における最悪の問題である憎しみの連鎖と搾取を、自然と合理主義との対立を踏まえてスッキリと見事に描いており、マジでハヤオは流石だと感じました。自分はナウシカ未見なのですが、近いテーマが描かれているのでは、と予想しています。


 で、個人的にはとにかく主人公アシタカがすごかった。カッコいい。彼はハヤオが願う新しい人類のような印象です。
 アシタカはとにかく我欲が無いので執着もない。タタリ神の呪いに対して嘆くこともなければ、サンへの恋心に煩悶することもなく、ただ宿命に対して常にベストを尽くす態度を取り続けるという、かなり超人的な印象です。彼の苦悩は自分を守ることではなく、世界を良くすることですからね。ホント偉大ですよ。
 その我欲の無さ、状況のメッセージにただ応える姿は、我欲サイドの代表・ジコ坊にして「バカには勝てん」と言わしめるのです。肥大した欲望に振り回されている人間どもにとってアシタカは、欲望や怒り、憎しみの連鎖から離れた価値と行動原理を持っているため、彼の価値観を理解できずバカに見えるのでしょう。そして、その場を支配している価値観にそぐわないバカは、新しい価値観を生み出すトリックスターにもなり得ます。

 我々普通人は我欲や執着からの解脱は無理だとしても、向こうから問いかけられた何かに対してベストを尽くすことは、アシタカに倣うことができそうであります。アシタカみたいなバカになれたら最高っすよ。
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