さうすぽー

もののけ姫のさうすぽーのレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
5.0
自己満足点 96点 ※長文注意

「あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!」
「黙れ小僧!お前にあの娘の不幸が癒せるのか?」
という事で、祝500本レビューです!
なので、宮崎駿の作品で最も思い入れのある本作をレビューします。


宮崎アニメ史上最も攻撃的で過激。かつ非常に奥の深い作品。
しかしながら、全てのスタジオジブリおよび宮崎駿の集大成にして最高傑作。
それが「もののけ姫」だと思っています!

今作は考察等を話すと、Youtubeの動画だと平気で1時間になったり、ブログでも膨大な文字数になるので、深々と考察を語るのは控えます。その代わりに今作の魅力を語りたいと思います。

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①今作の思い出

自分が最初にもののけ姫を観たときは恐らく小学校1か2年の頃だったと思います。
その時はタタリ神の気持ちの悪さがとにかくトラウマでしたが、アシタカやサン等のカリスマ性溢れるキャラクター達がいて、迫力のあるバトルシーンがあるので話が難しいながらも楽しんでました。
また、自分は今作を観て初めてアニメーションで人体損壊の場面を観たので、初観賞は非常に衝撃的でした。

しかし、今は鬼滅の刃でも人体損壊の場面があるにも関わらず多くの子供が観賞しているので、昔も今もあまり変わらないなとも思えます。

また、先ほどタタリ神がトラウマだったと書きましたが、あの造形は今観ても本当におぞましい姿です!
黒蜘蛛がモデルとされていますが、一目で「近づいてほしくない!」と思う気持ちの悪さでした。


②圧倒的な作画力

以前の作品に比べて、作画が緻密さを誇っており、バトルシーンが迫力があって感動します!

今までの宮崎駿作品は、バトルシーンや名シーン等は1フレーム24コマ、その他は8コマと使い分けしていたので、総作画枚数は常に7~8万程度でした。
しかし、今作のセル画枚数は14万4000枚と圧倒的に多くなっています。この枚数はセル画に15万枚使ったAKIRAと大差無い数字になります。
(ちなみにセル絵の色数は580色なので、こちらはAKIRAの327色を軽く超えてます。)
それによって、ナイフや大砲を含めたバトルシーンが無い場面でも、シシ神やアシタカ等の寄りアップショットの時に実写映画のカメラワークのような滑らかさになっています。
(8コマだと、あまり滑らかにはならないです。)

また、タタリ神の赤黒いミミズやデイダラボッチの場面ではCGが使用されています。それに加えて背景や人物画をグラフィックで描いているので、よりタタリ神やデイダラボッチ等に異質さを際立たせており、凄く良い意味でファンタジックです。
バトルシーンにおいても、アシタカが弓矢を放つ場面が非常に臨場感あって迫力があり、アシタカの放つ矢が飛んでいる時はわざと2,3本多く描く事で異質さと迫力感が出ていました。
こうした工夫により、紅の豚以前の作品群と比べてより迫力感溢れ、より臨場感に溢れていました。


③キャラクター描写の深さ

まずは主人公アシタカについてです。
アシタカは基本的に善人ではありますが、自分を犠牲にしてことごとく傷を追うのである意味不遇なキャラクターでもあります(笑)
彼は冒頭でタタリ神となった巨大な猪に矢を放った事で呪いをかけられます。
個人的な考察では、誰かを守るために相手を攻撃するという罪を犯す。自分の正義のために罪を追うという、ある意味ヒーローの本質を問う人物でもあると感じます。
ちなみに、あの顔とあのイケボならそりゃモテますよね(笑)
オマケに平気で「そなたは美しい」なんて台詞言うし(^_^;)
演じた松田洋治さんも非常にはまっていました。

ヒロインのサンも興味深いです。
モロ率いる山犬側のキャラクターでありながら"人間"であるという複雑な立ち位置で葛藤しながらも男勝りで勇敢な姿が魅力的です。
ラストも、人間を許す事は出来なかったけどアシタカの思いを受け入れていました。それが彼女の立ち位置の最終的な回答でもあると思いました。

そして、個人的に思い入れが深いのは田中裕子が演じたエボシ御前。
自分の中で子供の頃に観た時と大人になって観た時で一番印象が変わった人物です!
彼女は山犬や猪の住処を奪い、イノシシをタタリ神に変えた張本人なので悪役になります。しかし、タタラ場の住人には英雄視されており、どんな人物でも労いの言葉をかける善人でもあります。
彼女は善人の一面と悪人の一面があるという非常に正義の天秤にかけるのが難しい人物です。
"善"と"悪"は立ち位置によって常に違ってしまうものです。エボシ御前は間違い無くそれを体現する人物と言えるでしょう。
なので、自分が子供の時は彼女の事が非常に嫌いでしたが、今では本作で一番好きな人物になりました。
ちなみに、ストーリー展開における彼女の末路も非常に良かったです。


④久石譲の音楽

宮崎駿作品の音楽はカリオストロの城以外は全て久石譲が手掛けていますが、ナウシカやラピュタではミニマル音楽、紅の豚ではコミカルかつノスタルジックな曲調でした。
それと打って変わり、今作では壮大なオーケストラ調で全編で構成され、その中に和太鼓やチャンチキ等の和楽器等も含まれております。
これは日本の自然の荘厳さだけでなく、今作のテーマの一つである「自然と人間の対立」という重く深い内容を彷彿とさせられる音楽ですね!

今作の劇版音楽の製作にあたり、久石さんは3年ほどオーケストラの勉強をするために他の音楽製作の活動を休止していたそうです。
完成した音楽が素晴らしかったために、宮崎駿はキャスト・スタッフのクレジット部分に普段挿入させるイラストを一切入れずに白黒のクレジットにしたそうです。
これは、久石譲の音楽を集中して聴いてほしかったためだとか。


⑤総括

今作を振り替えると、何故宮崎アニメがこれだけ国内外で支持されるのか。その理由が今作の映画に全て詰まっていると思います。

本作には様々なテーマが組み込まれています。
環境問題、自然と人間の対立、人間の善悪、女性や社会的弱者の差別問題等、現代の社会問題として最も取り上げられている題材がいくつも盛り込まれています。
正直これだけテーマを盛り込むと物語が破綻する恐れがあるものの(現にハウルやポニョはそうなってしまった)、これほど上手く最後にまとめきった作品はほとんどありません!

また、迫力のあるバトルシーンによって娯楽要素も強いため、社会派の要素が苦手な人でも楽しむ事が出来ます。
グロテスクな場面もあるシリアスな内容は人を選ぶかもしれませんが、自分は本作がほぼ完璧なアニメーション映画だと思っています。


長文になりましたが、
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。