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もののけ姫のおーたむのレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
4.5
紅の豚からもののけ姫へ。
私がリアルタイムで劇場に見に行った初めての宮崎駿作品が、コレでした。
基本的に明るい作風だった過去作と比較して、およそ明朗とは言いがたい本作に、当時は衝撃を受けたものです。

何しろ本作は、けっこう暴力的。
普通に腕やら首やらが吹っ飛ぶわ、主人公の土手っ腹に穴が開くわ、首だけになった巨大な山犬が腕を食いちぎるわ。
初鑑賞時は、かなりびっくりしました。
加えて、とてもシリアスです。
呪いを解くために旅立ったアシタカの物語も、運命的に衝突する人間と神々の物語も、最終盤まで深刻な方向に突き進んでいくうえ、後者の方の物語は、ただ多くの犠牲を払っただけで終わり。
宮崎作品の定番であるハッピーエンドも、本作ではかなり曖昧です。
関連して、登場人物も、分かりやすい善悪では描かれておらず、安易な理解や感情移入を許してくれません。
呪いによって超人的な力を発揮する主人公に、人間を襲撃し殺すヒロイン。
通常なら悪役として描かれるはずのエボシ御前は、たたら場の民に慕われる優れた統治者だし…と、単なる勧善懲悪の物語にはなっていません。
双方ともそれぞれの理があるだけに、なおいっそう避けがたくなる対立の構図には、人間と自然の共生というテーマについて楽観せず、現実的に描こうとしている作り手の姿勢を感じました。
こうした、従来作品との違いは、宮崎駿作品の中では最長となる上映時間とも相まって、作品を見ごたえのあるものにしていたと思います。

そして、豊かな創造性と、それを魅力的に映像化する力は、やっぱりさすが。
実在しないはずのものの細部を描き、そこにリアリティを宿らせる宮崎駿の能力は、相変わらず冴え渡ってます。
タタリ神のうねうねが日光に触れた部分だけ剥がれるとか、シシ神が歩いたところの草木が成長し枯れていくとか、水面を歩いている時に撃たれたシシ神の足が水面に沈み、傷を修復した瞬間には再び水面に上るとか、その発想が凄いです。
極めつけは、コダマの群れがざわめく夜の森をディダラボッチが歩いていく場面で、これがまあ荘厳なこと。
神秘と幻想に溢れた、純和風ファンタジー屈指の名シーンですね。
天才が炸裂してます。

ということで、本作も、過去の宮崎駿作品に負けず劣らずの傑作でした。
複雑で、残酷で、混沌としていて、一筋縄ではいかない物語ですが、そういうところに、いろんな解釈を許容するような懐の深さも感じられたりもして、見るたび大きな作品だと思わされます。
メッセージ性と娯楽性を高いレベルで両立させた、良い作品です。

最後に一つ、書くとこないんでここに書きますが、ヤックルの健気さが反則的に可愛いんですけどどうしましょう。
乗りたい。
なでたい。
夢に出てきてほしい。
おーたむ

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