蛸

ハエ男の恐怖/蝿男の恐怖の蛸のレビュー・感想・評価

ハエ男の恐怖/蝿男の恐怖(1958年製作の映画)
4.1
深夜の工場でプレス機に潰された男(アンドレ)の死体が発見された。現場には男の妻(ヘレン)がいて、彼女には夫殺しの容疑がかかる。果たして彼らの間に何が起こったのか?という展開の映画。
結末を先に提示しておいてから過去に起きた出来事を明かすことで興味の持続を狙い、さらに後半20分でその先の出来事を描くという構成。
天才科学者が自身の発明によって破滅していく、所謂フランケンシュタイン型のストーリー。
劇中でヘレンが生活の速度が増していくことに対する(近代的な)恐怖を吐露するシーンがあるが、アンドレの発明した物質転送機はまさしく「速度の究極」に位置するものである。
転送機の事故によってハエ男と化したアンドレは声を失ってしまう。妻とのコミュニケーションは筆談によって行なわれることになるが、速度の究極としての物質転送機がコミニュケーションの遅延をもたらすという展開は皮肉だ。
ディック・スミスによる蠅男の造形も良いが、徐々に思考が困難になってくる蠅男を演じる俳優の演技も素晴らしい。もはや自分で自分を制御できない鬼気迫る様子で実験室を破壊するシーンが特に鮮烈。物語上、この場面は自殺を意味し、主人公の悲哀が凝縮されている。
蠅目線でのカメラ演出など、ところどころに工夫が感じられ、実験室の「何に使われるのかわからない機械」を含めてビジュアルもしっかりしてる。
トレンチコートにハエ頭、という格好はアイコン的で正に「怪人!」といった趣がある。が、別に蠅人間のビジュアルだけの見世物映画ではなくてちゃんとストーリーで魅せるタイプの映画だ。
どう考えてもハッピーエンドではないのにハッピーエンド風に収めたエンディングも含めておぞましい。
クローネンバーグ版とはだいぶ展開が違うのでそっちを見たことがある人にもオススメ。
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