ほーりー

ハエ男の恐怖/蝿男の恐怖のほーりーのレビュー・感想・評価

ハエ男の恐怖/蝿男の恐怖(1958年製作の映画)
4.2
クローネンバーグ版は、中学生の頃にテレビで放映していたのを観たのが、特殊メイクの気持ち悪さから途中でチャンネルを変えてしまった。

本作はそのオリジナルの作品。ジョルジュ・ランジュランという英国国籍のフランスの作家(ややこしいな…)の「蠅」が原作のSFホラーの古典映画である。

ある夜、工場で上半身をプレス機で潰された死体が発見される。現場からは若い婦人が逃げるのが目撃される。殺人事件として捜査が進む中、被害者はこの工場の経営者の弟である科学者であることがわかり、目撃された女が被害者の妻であることがわかった。

夫殺しの容疑を認める女だったが、殺した動機については全く口を閉ざしたままだった。そして、何故か妻は異常に蠅について気にする素振りをするのだった…。

何故、プレス機は2回も動かされたのか?何故、妻は蠅について異様に関心を示すのか?など、SF映画というよりは、ミステリー仕立てでストーリーが展開していくので、どんどん話に引き込まれていく。

物体転送装置を飼い猫で実験するシーンがたいそう薄気味悪かった。実験に失敗した直後のあの不気味な余韻が忘れられない(変に猫のクリーチャーを出すよりはもっと効果的で安上がりな演出をしている)。

ただ本作で最もインパクトの強いシーンは何かと言えば、やはり終盤の“あれ”が見つかるシーンに尽きるように思う。あの声は本当に気持ち悪い。

被害者の兄をアメリカン・ホラーの顔であるヴィンセント・プライスが演じているが、本作では珍しく常識人を演じている。甥っ子に父親の死を伝える際のシーンが感動的で、この映画の締めくくりにふさわしい名場面であった。

科学の目まぐるしい進歩は時に人間に幸福を与えるが、ほんの少し油断をすれば恐ろしい事態を招きかねない危険なシロモノでもある。特に劇的な発展を遂げた20世紀前半を生きた人にとっては、現代の我々以上にそういう意識が強かったように思える。
この時代に作られたからこそ、B級ホラー映画ながらも人々の心に訴える作品になったように思える。
ほーりー

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