ひでG

血槍富士のひでGのレビュー・感想・評価

血槍富士(1955年製作の映画)
3.9
今月の「掘出し物映画」はこれ!
私が生まれる前の作品。

父親のDVDコレクションからランダムにチョイスしたんだけど、実に面白かった。

江戸時代、街道の宿場町での話。

若殿と二人の家来。江戸に藩の仕事で行く。槍持が片岡千恵蔵。おそらく初めて主演作を観るのかな。
人情味があってナイスガイ!

この若殿は酒癖が悪く、二人の付き人は藩から「殿にはお酒を飲ませないように。」と命じられている。

この3人を軸に、旅芸人の母子。
謎の旅人や行商人、
孫を身売りする祖父など、旅の途中で宿場に集まった人々の人生が交錯する。

一つずつのエピソードがラストに向かい、加速度的、有機的に結びつき、しかもとても分かりやすいし、
最後はヒューマン部分をしっかり描いている。

この時代は当然身分制度の時代である。
家来は主人の為に動き、侍の地位は他の職業より高い。

槍持の片岡千恵蔵に旅芸人の子供か憧れを持つのもわかるカリスマ性がある!

反面、貨幣社会が浸透して、それを無視して生きて行くことも困難になっていく。武士と町人の相部屋や酒屋での接触も自然に行われている。
借金の肩代わりに、娘たちは売られていく。貨幣の力にはあがなえない。

そんな二つの社会的側面をバックに、人物たちの絡み合いが意外な方向へ展開していくこの脚本の巧さ!

◯にまるれて死んでいくのは、◯をようやく克服した瞬間だったという皮肉な結果。

男の子に憧れられたことをちょっと嬉しく思っていた槍持は、ラストにはもう存在しない。
オーソドックスだが、主張力を持った、しっかりした時代劇でした。

古き日本映画クリエイターの層の厚さを感じさせられる。
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