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おとし穴のかずシネマのレビュー・感想・評価

おとし穴(1962年製作の映画)
3.8
OP、夜逃げなのか、こそこそと逃げ出す主人公たち。
BGMは無い場面かな?と思ったらいきなり何やらよく分からない音が鳴る。メロディは有って無い様な短い音。
そして左側寄りに大きく1文字ずつ表示されるおとし穴という作品タイトル。

流石の勅使河原監督。
いつもの如く掴みがバッチリ過ぎる。

序盤油断していたら実際の?炭鉱所で働き傷付いた人の映像が出て来て少したじろぐ。
そして、か、蛙がー!カエルさんがーー!!なんで?!
子供特有の理不尽な残虐性が蛙を襲う…。
自分はああいうの無理なので目を手で覆った。あれならせめて食べてやってくれよ。。

上記のシーンもあり、序盤は特に説明があまり無いので余計に薄気味悪く、少々怖い作品なのかも?と思ったが。
ストーリーが進むにつれ、段々とシュールさが増していった印象。
意味不明さと気味悪さとシュールさ(シュールな笑い)を行ったり来たりしていた。
主人公と駄菓子屋の女性の顔がめっちゃくちゃ近い位置にあるのに「見えていない、認識されていない」という場面からシュールさが増した気がする。
また、その時の構図とカメラワークがとても好きだった。

殆ど誰もいない町で「誰かー!」と主人公と息子が叫んでいる時の画の綺麗さよ。
影の落ち方、構図、すげーキマってた。
それと、まるで水彩絵の具が1滴じわぁっと紙に広がっていくような演出の場面の切り替えが面白かった。
死者から見える景色と生者から見える景色が違うって表現も面白かった。
道具を持たずに道に箒をかけていたり、同じく何も持たずに何かを耕していたり、突然スッポンポンの男児がいたり。…や、文字で書くと怖いな。

若い頃からそのまま歳を重ねられているお顔ってイメージだったんだが、井川比佐志はこの作品では少し幼く見えた。
ただ途中で彼の2役目(主人公でなく組合長役)が髪型を整えた時はそう思わなかったので、主人公の髪型のせいかと思う。
佐々木すみ江さんのスタイルが、というか体型そのものが何か言いようが無く生々しかった…。
色っぽいとかエロいって言葉じゃなく、生々しいって言葉が似合う。
佐藤慶は新聞記者役だったが、グラサンしてる時の胡散臭すぎる雰囲気よw
だからもっと裏がある役なのかと思った。

彼の演じた色々な役を観て来たけど、田中邦衛の役に対して「なんかこの人怖い…」と思ったの初めてかも。
隠し撮りをしているシーンとか、主人公を追いかけているシーンの最初の方はまるで「だるまさんが転んだ」みたいな事になっていて、ニヤニヤして観てたんだが。
すぐに笑えなくなったし、終始何を考えていたのか分からない雰囲気で。

でも多分だけど。
主人公や駄菓子屋の女性は答えを求めていたけど、理由なんて無いと思うわ。
落とし穴に落として足の引っ張り合いをさせてみただけ。
立派な人でも、そうでなくとも、誰もが落ちるという事を見たかっただけ。
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