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日本の悲劇のkaomatsuのレビュー・感想・評価

日本の悲劇(1953年製作の映画)
4.0
とにかく綺麗事では済まされない映画だ。

戦後間もなく、母と子(姉弟)が歩む、それぞれの人生。母(望月優子)は可愛い子供二人に近付こうとすればするほど、子はそれを鬱陶しく思い、母との距離を取ろうとする。母は闇屋や売春、温泉芸者などの、世間に後ろ指をさされがちな仕事ばかりに就き、子供はそんな母を忌み嫌っている。子供たちを食べさせるための、母の立場や境遇を察して、はいそうですか、分かりました、と納得するはずもなく、息子はある家の養子になると言い、娘は道ならぬ恋を口実に逃げていく。傷つけ合い、罵り合い、露骨な本音を浴びせ合い…本当に救いようがない、戦後日本の悲劇の集大成。でも、エゴを通さなくては生きていけない場面が多かっただろうこの時代に思いを馳せると、本当にやるせない気持ちになる。夢や希望、信頼、愛などの要素を一切排除し、市井の暮らしにおける人間の恥部をここまで容赦なく描いた木下恵介監督は、やはり日本映画史上最も信頼できるシネアストのひとりだ。メロドラマ的な構成の上手さにも舌を巻く。

この殺伐としたドラマの中、温泉宿でギター片手に流しをする佐田啓二の存在が、一服の清涼剤となっている。このイケメン流し、ストーリーとはほとんど関係ない存在だからこそ、彼の歌う「湯の町エレジー」がやけに心に染み入るんだろうな。望月優子扮するお母さんが彼に歌をリクエストしたあと、「お母さんはいるの?」「お母さんを大切にしなよ」(正確なセリフではありません)と語りかけるシーンは、子供たちにつれなくされた母の憂いが滲み出ていて、ほろりと哀しみを誘う。
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